母趾外転筋の機能から介入を見つける!~足部形態・歩行への影響~

 

 

足部内側縦アーチ(MLA)は骨構造、靭帯支持、足部外在筋および足部内在筋のすべてがMLAの支持に寄与しており、歩行中の回内やMLAの低下を制御する役割を担っています。

 

 

 

MLAに寄与する構造が障害されると、過回内やMLAの低下が生じ、衝撃吸収機能が適切に作用しない可能性があります。そのため、組織に加わるストレスが増大し、シンスプリントや足底腱膜炎などの二次的な障害を引き起こす可能性も考えられています。

 

 

 

また、MLAが低下すると、足部が柔らかい状態となります。そのため、歩行の体重負荷時(Mid stance)や蹴り出し時(Terminal stance)に硬い足部を作ることが出来ず、効率的な歩行ができない可能性があります。

 

一般的にMLAを維持するためには、足部外在筋の前脛骨筋や後脛骨筋、長腓骨筋の機能に着目されることが多いです。

 

 

 

しかし、最近では足部内在筋にも着目されてきています。足部内在筋は足部のスタビライザー機能があると考えられており、MLAを維持する役割だけでなく、効率的な足部外在筋の活動を引き出すために、安定した土台を提供する役割があると考えられています。

 

 

 

そこで、今回の記事ではMLAの支持に関与する足部内在筋の中でも、母趾外転筋に着目して、足部形態と歩行への影響を考えていきたいと思います!

 

 

1.母趾外転筋の解剖

 

母趾外転筋は踵骨内側結節から種子骨に付着します。足底腱膜や屈筋支帯、舟状骨粗面にも付着しているとも述べられています。

 

 

母趾外転筋は踵骨内側結節から種子骨に向かって、一直線に走行しているわけではなく、筋膜により筋腹が持ち上げられています。そのため、上に凸の様な走行をしています。

 

 

 

母趾外転筋の一番の特徴は足部内在筋の中で、一番大きい生理学的断面積を持ち、大きなモーメントアームを持つことです。筋断面積と筋力には高い相関が報告されており、筋断面積が大きいほど筋力も大きいです。また、モーメントアームも大きいので、強い力を発揮しやすいです。母趾外転筋は足部にとって重要であることがわかります。

 

 

 

2.母趾外転筋の機能

 

母趾外転筋には静的・動的な機能があると考えられています。まずは、静的な機能から考えていきたいと思います。

 

 

 

母趾外転筋の収縮により、MLAが上昇します。MLAの上昇と一致して、第 1 中足骨の屈曲と回外、踵骨の内返し、脛骨の外旋が生じます。この骨運動はすべてMLAを上昇させる動きであるため、母趾外転筋はMLAを上昇させる機能があると考えられます。

 

 

また、母趾外転筋に電気刺激を加えることで、前内側の足底圧上昇、最大圧の外側変位、下腿外旋が生じると報告されています。前内側の足底圧上昇≒中足骨の屈曲、最大圧の外側変位≒足部内返し、下腿外旋≒距骨下関節内返しと捉えると、MLAは上昇していると考えられます。

 

 

 

しかし、母趾外転筋は座位や立位ではあまり活動しない可能性があり、静的な機能に関しては意見が一致していません。ですが、母趾外転筋の動的な機能については、おおよそ一致した見解が得られています!

 

 

足底内在筋は負荷の増加に応じて筋肉の活動が生じ、MLAの安定化に役割を果たしている可能性があることが示唆されています。母趾外転筋は100%の体重を加えると筋活動が生じ、負荷が増大するにつれて活動も増大していきます。

 

 

 

また、母趾外転筋は歩行のフェーズによって機能が異なると考えられており、それぞれのタイミングでの機能を理解しておくことが大切です。

 

 

 

一般的に足部内在筋は足部外在筋よりも、歩行の早期から活動し後期まで活動し続けると報告されています。その中でも、母趾外転筋の歩行初期での機能と後期での機能が少し異なると考えられます。

 

 

 

歩行の立脚初期で重要な機能は、歩行のスピードを殺さずに衝撃吸収を行うことです。立脚中期では、体重をスムーズに前方へ移動することになります。

 

母趾外転筋の歩行初期での機能として、足部の過剰な回内を制動し、MLAの扁平化を減速させる役割があると考えられています。つまり、母趾外転筋は遠心性に収縮し、足部の形態を保ちながら、衝撃吸収に関与していると考えることができます。

 

 

 

また、母趾外転筋を含む足部内在筋は足部外在筋の間の相互作用が説明されており、内在筋は脊椎の安定性のための腹横筋と同様に、局所的な足のスタビライザーとして機能し、外在筋が全体的な動きを生み出すための安定した基盤を提供すると推測されています。

 

 

 

そして、母趾外転筋を含む、足底内在筋の活動は片脚でのバランス維持に重要と考えられています。足部内在筋が活動することで、縦アーチや前足部を硬化させ、足部を安定化させると述べられています。足部が安定化することで、歩行時に体重を前方に移動することができます。

 

 

 

続いて、母趾外転筋の立脚後期での機能について考えていきます。立脚後期では、母趾外転筋を含む足底内在筋の筋活動が高いと述べられています。立脚後期では、下肢をより遠くまで運ぶために、効率よく力を伝達する必要があります。

 

 

 

足底内在筋は推進中にMLAを安定化させ(アーチの上昇)、足部を硬くすることで、力のロスを少なくし、効率が良い蹴り出しにつなげていると考えられます。

 

 

 

また、歩行の蹴り出しの際に、母趾には体重の約3050%の負荷が生じると考えられており、母趾外転筋の活動が母趾の安定性に寄与し、最終的な蹴り出しが遂行できていると考えられます。

 

 

母趾外転筋の機能をまとめると
・MLAを支持する役割がある(荷重時)
・歩行初期の回内を制動し、MLAの低下を防ぐ
・歩行後期では足部の安定化に寄与し、効率的な蹴り出しにつなげている

 

 

母趾外転筋の機能が低下すると、MLAの低下やMLA低下に伴う二次的な障害の発生、歩行効率の低下などが生じると考えられます。そのため、MLAの低下や歩行に問題がある場合、母趾外転筋の機能を評価してみる必要があるかもしれません。

 

 

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