アキレス腱の障害はスポーツ選手だけでなく、一般的な生活をしている方でも生じる障害です。アキレス腱障害は一度発生すると、長期にわたって症状が残存する方も多くいます。
今回の記事では、アキレス腱の解剖から
・どの部位にストレスが生じやすいのか?
・なぜアキレス腱障害が生じるのか?
・アキレス腱の評価や介入方法はどんなものがあるのか?
などを考えていきたいと思います!
本記事の内容は下記のようになっております。
1.アキレス腱の解剖
アキレス腱は身体の中で最も強く、大きな腱です。アキレス腱は腓腹筋とヒラメ筋の結合腱であり、足底筋からのわずかな寄与がある場合もあります。アキレス腱は腓腹筋とヒラメ筋の寄与率が異なることや長さも個人によって異なることが述べられています。
腓腹筋とヒラメ筋を簡単に復習します。
腓腹筋は内側頭と外側頭に分けられ、内側頭の方が外側頭よりも大きく下腿の遠位まで存在しています。内側頭は半膜様筋と外側頭は大腿二頭筋と隣接しており、両頭とも膝関節包の一部である斜膝窩靱帯から起始しています。
ヒラメ筋は魚の「ヒラメ」の形に似ていることからヒラメ筋と名付けられています。ヒラメ筋は脛骨・腓骨から幅広く起始し、筋腹は腓腹筋よりも遠位まで存在します。個体差が大きい筋肉であり、踵骨のすぐ近くまで筋腹が存在する場合もあります。
この二つの筋肉の底屈への寄与率はヒラメ筋が一番大きく、腓腹筋内側頭、外側頭と続きます。ヒラメ筋は筋断面積が大きく、底屈トルクの60%以上を占めるとも報告されています。しかし、2つの筋肉のアキレス腱への寄与率や個体差が存在するため、底屈への寄与率は個人によって異なると考えられます。
続いて、アキレス腱について復習していきたいと思います。
先ほど記載しましたが、アキレス腱は腓腹筋とヒラメ筋から構成されていますが、寄与率が異なる可能性があります。
報告によると
・被験者の52%において、ヒラメ筋のアキレス腱への寄与率は52%、腓腹筋の寄与率は48%であった。
・35%の被験者では、腓腹筋とヒラメ筋がそれぞれ50%ずつ寄与していた。
・13%の被験者では、腓腹筋が腱の3分の2
を形成していたと述べられており、この寄与率がアキレス腱の障害にも関連するのではないかと考えられます。
また、アキレス腱の長さにも個体差が存在しており、遠位に走行するにつれて捻じれが生じると述べられています。アキレス腱の長さが長ければ捻じれは強くありませんが、アキレス腱の長さが短いと捻じれが強くなる可能性があり、アキレス腱にストレスが生じやすくなると考えられます。
では、アキレス腱はどのように捻じれているのかというと、個体差はありますが…
・腓腹筋は踵骨の中間~外側部にかけて付着
・ヒラメ筋は踵骨の中間~内側部にかけて付着
と報告されています。そのため、アキレス腱のどの部位に障害が出現しているのか、解剖や走行からある程度、評価することが出来るかもしれません。
走行に捻じれがあることで、アキレス腱が弛緩しているときには線維の撓みが少なくなり、緊張しているときには個々の線維の変形が少なくなるため、線維の歪みと摩擦が減少し、強度が向上する可能性が考えられます。
アキレス腱は解剖学的な強度も強いですが、衝撃やストレスを軽減できる構造を呈していることも特徴の一つです。アキレス腱はエンテーシスの構造を呈しています。エンテーシスは骨とそれにつながる組織を結合させるだけでなく、力学的負荷を効率良く伝達・分散させる役割があります。
そして、アキレス腱には線維束ごとにパラテノン、エピテノン、エンドテノンに覆われています。パラテノンが腱の周囲に存在することで、滑走を可能にしています。また、パラテノンとエピテノンの間には液体が存在し、摩擦を防いでいるとも述べられています。エンドテノンは緩い結合組織で、束の相対的な動きを可能にします。
パラテノン、エピテノン、エンドテノンのそれぞれがアキレス腱の摩擦の軽減に関与していると考えることが出来ます。
また、最近ではアキレス腱と足底腱膜の連続が慢性的な機械的負荷に対する適応性を示すとも考えられています。つまり、アキレス腱の硬さは足底腱膜に影響を与えるため、ストレスを考える上ではどちらの組織にも着目する必要がありそうです。
2.アキレス腱の障害
アキレス腱障害は、スポーツを積極的に行う方に多く見られる障害ですが、スポーツをしない方にも生じます。長距離走選手では50%、一般的な人でも6%と報告されています。一般の方で、アキレス腱障害が出現する方は、旅行でよく歩いた、仕事でよく歩く方に多い印象があります。
アキレス腱は解剖学的に強度が強いことやストレスや摩擦を軽減できる構造があるのですが、ランニング、ジャンプ、ホッピング、スキップの際に、体重の10倍のストレスが生じ、身体で最も大きな負荷を受ける可能性がある部位でもあります。
そのため、いくらアキレス腱が構造的に強いといっても、反復性ストレスにより、傷害を起こしやすくなっています。特に腱の捻転によりストレスが生じ、踵骨の挿入部から2cm~5cm近位に最も生じやすいです。
アキレス腱障害が生じる理由としては、”Whipping action”や”下腿部の捻じれ”、”血管の走行”が挙げられます。
Whipping actionとは、足部の過回内が生じることで、アキレス腱の遠位内側・中央部のストレイン(歪み)が増加すると考えられています。(逆に外側部のストレインは減少している)
アキレス腱障害の方の歩行では、立脚中期に後足部が外反しており、ATに慢性的に負荷が加わると考えられます。そのため、アキレス腱内に不均一な歪みが生じることがアキレス腱障害の発生メカニズムではないかと考えられています。
また、アキレス腱の中央部は付着部や近位部と比べて、血管が少ないため、ストレスによる損傷が生じた場合、組織の治癒が遅い可能性があります。完全に治癒しない状態で、アキレス腱にストレスが生じると、アキレス腱障害が生じると考えられます。
しかし、バイオメカニクスや血管の解釈については、矛盾する報告もあるため、アキレス腱障害の方すべてにこの情報を当てはめるのではなく、一人の患者さんの状態を考えて行く必要があります。
では、アキレス腱はどの程度のストレスが加わると組織の損傷に繋がるのでしょうか?
一般的に腱は硬く弾力性に富み、高い引張強度を持ち、損傷前に4%まで伸びることができます。それ以上の伸張力が加わると組織の損傷や断裂が生じると報告されています。ですが、臨床で4%を超える伸張力と言われてもなかなか想像できないですよね💦
また、正常な腱では4%の伸張力は耐えることが出来るかもしれませんが、一度断裂した腱や損傷した腱は、III型コラーゲンの割合が高く、引張力に対する耐性が低いと述べられています。
そのため、アキレス腱障害の既往がある方では再発のリスクが高いと考えられ、介入方法も慎重に選択する必要があるかもしれません。
単純ですが、アキレス腱の剛性は足関節背屈角度の増加とともに増加します。そのため、足関節背屈はアキレス腱の損傷または断裂のリスクが高まります。
特に、アキレス腱は”Whipping action”や”下腿部の捻じれ”があるため、アキレス腱の内側に歪みが生じやすいです。そのため、腓腹筋内側(MHG)、ヒラメ筋、またはその両方が損傷するパターンがあり、2つの筋のストレスを把握することは大切になると考えられます。
3.アキレス腱の評価
アキレス腱障害は以外と見分けがつきやすいのですが、アキレス腱だけでなく、周辺組織にも問題が生じているのかを評価する必要があります。また、鑑別評価も大切になります。
アキレス腱の評価としては
・arc sign
・Royal London test
・Thompson test
・Simmonds test
・筋力評価
などの多くの評価方法がありますが、ここでは詳細を割愛させていただきます。私はThompson testと筋力評価をすることが多いです。
アキレス腱障害の疑いが強くなったら、腓腹筋由来なのかヒラメ筋由来なのか、それとも両方なのかの影響なのかを評価する必要があります。
評価はやはりエコーが一番使用しやすいと思います。エコーは非侵襲的であり、容易に利用できます。また、アキレス腱の評価において、超音波検査は高い信頼性を有することが報告されています。
ここで少し、正常中のアキレス腱とアキレス腱障害の方では、どのようなエコー画像が得られるのかを説明したいと思います。正常な方では、アキレス腱の線状高エコー像を確認することができ、低エコー像や新生血管、紡錘状の腫大は確認できません。
一方、アキレス腱障害のエコー画像としては
・低エコー領域
・厚みの増加(紡錘状)
・新生血管の増加
以上の3つが挙げられます。
1つ1つの画像について説明します。下の画像は「低エコー画像」になります。正常では、線状高エコー像が確認できますが、アキレス腱症の方では、確認できず、深層に低エコー像を確認することができます。
続いての2つの画像はアキレス腱の紡錘状の腫大と新生血管が増大している画像になります。どちらも正常なアキレス腱の方では確認することが出来ない画像所見になります。
この様な画像を確認することが出来たら、アキレス腱を短軸で撮影してみましょう。短軸で撮影することで、炎症や腫脹がどの組織に生じているのかを確認しやすくなります。下の画像は、内側かつ後方に低エコー像が生じているため、ヒラメ筋と腓腹筋内側頭の障害によるアキレス腱障害と考えることが出来ます。
しかし、画像所見をすべて鵜呑みにするのは危険です。
アキレス腱のエコー評価による「異常な腱」を定義する多様性が問題として挙げられています。
例えば
・Cominらは低エコーの存在(軽度、中度、高度)を異常の定義に用いた。
・3つの研究では、1mmを超える腱の肥厚を異常と定義しています。
・別の研究では、腱を異常と分類するために3mm以上の肥厚が必要であったが、また別の研究では、腱を異常と分類するために6mm以上の肥厚が必要とされた。
このように、何をもって腱の異常とするかについては、対象となった研究間で大きなばらつきがあり、構造と将来の症状との関係を過大評価したり過小評価したりする可能性があります。
また、画像の解釈も異なっています。画像所見を肯定する論文では「アキレス腱の低エコー像や新生血管、腱の肥大などの異常所見が症状(疼痛)に関連する」と述べており、その中でも、新生血管の存在とアキレス腱の痛みの存在との間に強い関連性があると述べられています。
無症候性のアキレス腱でエコーの異常所見は、アキレス腱障害の予測因子であり、少なくとも 4 倍のリスク増加と関連していると報告されていたり
1 年以内のアキレス腱症の発現のオッズ比が最も高かったのは、腱内血流であったとも報告されています。
一方で、エコーの異常所見はアキレス腱障害と関連がないと報告しているものもあります。例えば、無症状のスポーツ選手の多くに腱の「異常」が確認されており、無症状者の59%に低エコー領域、厚みの増加、新生血管の存在が確認されています。
いわゆる運動後の適応的な血流の増大であり、エコーの異常所見は問題としては考えないと述べている報告もあります。
一般的にアスリート(89%)では、多くの部位(肩、膝、股関節、脊柱)に構造異常が見られると報告されています。また、腱障害の特徴を伴う構造変化は、機能が保持されたまま無症候性になる可能性があります。
これは腱だけではなく、他の部位においても良く見られることです。例えば、変形性膝関節症やヘルニアが存在しても、症状が出現しないこともあります。アキレス腱でも同様に考えることが出来るのではないかと述べられています。
また、異常所見は持続します。これは私の前距腓靭帯ですが、症状はありませんがエコーでは異常所見を呈しています。
画像検査は有用ですが、すべてを鵜呑みにするのではなく、「目の前の患者さんはどうなのか?」を考える必要があります。不必要な画像診断に介入することは、患者の信念や行動に悪影響を及ぼすこともあるため、画像解釈は伸張に実施しましょう。
4.アキレス腱の介入
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