後ろ向き歩行 ~膝OAへの効果~
上肢治療

 

 

変形性膝関節症(以下:膝OA)は多彩な症状が出現し、罹患すると徐々に進行し、エンドステージになると手術になる可能性もあります。

 

 

 

中でも、膝OAによる疼痛は姿勢バランス、固有受容感覚、大腿四頭筋の強さに関連しており、膝OAの進行だけでなく、転倒に繋がる可能性があり、二次的な障害に繋がるリスクが増大します。

 

 

 

そのため、膝OAの方では自分の健康増進・体力維持を目的に水泳や歩行など低負荷の運動を実施する方も多いです。定期的な歩行や運動は有益であり、膝 OA患者の疼痛や障害を軽減するために推奨されています。

 

Egan BA, Mentes JC. Benefits of physical activity for knee osteoarthritis: a brief review. J Gerontol Nurs. 2010 Sep;36(9):9-14. 

 

 

しかし、歩行は健康に良いとされていますが、膝OAで疼痛が強い方や歩行の距離が長すぎる場合、逆に疼痛が増悪する可能性もあります。実際に膝が痛くて歩けない、歩きすぎて膝が痛いなどの訴えで来院する方も多いです。

 

 

 

そこで、膝OAの方でも簡単に実施でき、疼痛が増強することなくできる運動と考えられている「後方歩行」について、解説したいと思います。

 

まず、膝OAに対する「後方歩行」の効果について、記載していきます!

 

後方歩行の効果

 

OA患者に対して、従来の治療介入に後方歩行を追加して実施することで、静的安定性、NRSWOMACのスコアが改善したと報告されています。

 

 

 

また、膝OA患者だけでなく、健常者および脳卒中または脳性麻痺のバランス機能を改善し、転倒予防に繋がると報告されており、4週間の後方歩行練習後に、歩行機能の改善が認められたと報告されています。

Cha HG, Kim TH, Kim MK. Therapeutic efficacy of walking backward and forward on a slope in normal adults. J Phys Ther Sci. 2016 Jun;28(6):1901-3. 

 

 

このように膝OAだけでなく、後方歩行は健常者や神経疾患にも効果的に用いることが出来る介入方法と考えられます。私は臨床でアキレス腱断裂、捻挫後の後遺症(可動域低下・感覚障害)の方にも用いています。

 

 

では、後方歩行は前方歩行と比較して何が異なるため、このような効果が得られるのでしょうか?

 

後方歩行はリズム回路に加えて特殊な制御回路が必要と言われています。例えば、前方歩行と比較し、視覚への依存がほとんどないため、姿勢安定性を維持するため、固有受容感覚と前庭感覚に依存する必要があります。

 

 

 

また、バイオメカニクス的観点からは

・大腿四頭筋とハムストリングの共収縮が主要な動力源となる
・足関節底屈筋はショックアブソーバーとして働く
・前方歩行よりも膝蓋骨の圧縮力を大幅に減少

などが挙げられます。

 

 

このように後方歩行では、足部の固有感覚がより重要となるため、バランス機能の改善に繋がる可能性や前方圧縮力が減少するため、膝関節の疼痛が少ない状態で運動を実施することが出来ると考えられます。

 

そのため、今まで実施してきた介入でなかなか膝OA患者のバランス機能や筋力、疼痛の改善が乏しい場合、後方歩行をいつもの介入にプラスして実施してみるのはいかがでしょうか?

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