足関節背屈可動域制限が生じると「歩行障害」「外反母趾」「日常生活動作の支障」が出現します。
足関節背屈可動域制限に関与する組織には、筋肉・神経・靱帯・脂肪体・骨などが挙げられ、その他にバイオメカニクスや足底感覚などの要因も関係していきます。
なかでも、長母趾屈筋(以下:FHL)が足関節背屈可動域制限に関与することはご存じの方が多いと思います。では、「なぜ?長母趾屈筋が足関節背屈可動域を制限してしまうのでしょうか?」
今回は臨床的に良く述べられている「長母趾屈筋と足関節背屈可動域制限」について、深堀していきたいと思います!
1.長母趾屈筋の解剖学
FHLは下腿後面コンパートメントに属します。腓骨と骨間膜から起始し、その後、遠位に走行し距骨後面(長母趾屈筋腱溝)を通過します。そして、内果後面、載距突起の下方を通過し、母趾末節骨に付着します。
FHLの筋腹は距骨後面まで存在しており、以外と筋腹も大きいです。エコーで見ても、距骨の後面まで存在していることがわかります。
FHLの解剖で重要なことをまとめると
・FHLが距骨の後面を走行すること
・FHLは多関節筋(複数の関節を跨ぐ)であるということ
・FHLの筋腹は遠位まで存在する
この3点が大切と考えてください!
では、これらのFHLの解剖学的な視点から、足関節背屈可動域制限について考えていきましょう!
2.FHLが背屈可動域制限に関与する理由
FHLの解剖から距骨の後方を走行するため、”FHLの移動(滑走)制限が足関節背屈可動域制限に関与する”と聞いたことはありませんか?
実は、この情報は間違ってはいないのですが、正確に理解していないと間違った解釈に繋がってしまいます。なぜなら、足関節背屈時にFHLは大きく移動(滑走)していないからです。
では、「なぜ?FHLの移動(滑走)が制限されると、足関節背屈が制限される」という考えが出てきたのでしょうか?
J・マイケルソンらの研究では、母趾を伸展45°とした際、FHLは7.6mm移動、母趾を伸展15°とした際は、FHLは2.9mmの移動と推定しています。そして、結論では臨床的に硬いFHLの患者(母趾伸展20°以下)は、正常な被験者と比較して足関節背屈可動域の減少を報告しています。
つまり、”母趾伸展可動域の減少→FHLの移動(滑走)が少ない→硬いFHL→足関節背屈可動域制限の出現”と考えることができます。実際、母趾を屈曲-伸展させると、FHLの筋腹が近位-遠位へ移動している動態をエコーにて撮影することができます。
「FHLの動きが悪い!母趾の伸展可動域が減少している!さっそく介入...」
少し待ってください!その考えだと、背屈可動域は改善することは殆どなく、落とし穴にはまってしまうかもしれません!