肩関節外側部痛を考える ~外転時の痛みに着目して~

 

皆さんにはこのような経験はありませんか?

”肩関節屈曲可動域はある程度改善できたのに、肩関節外転可動域が改善してこない。痛みも伴っている…”

 

原因としては肩関節内転筋である肩甲下筋や大円筋の短縮、後下方・腋窩関節包の肥厚に伴う伸張性の低下、腋窩神経の絞扼や動きの制限、肩甲骨の運動制限などが挙げられると思います。

 

 

このように肩関節外転制限には多くの原因があり、すべてを解決する必要がありますが、今回の記事では腋窩神経と外転制限を中心に検討していきたいと思います。

 

1.腋窩神経について簡単に復習

 

腋窩神経はC5.6の神経根に由来しています。腋窩神経は大円筋・広背筋の前方を通過し、上腕骨後方に向かいます。QLSで腋窩神経は前枝と後枝に分枝します。

 

 

腋窩神経は三角筋と小円筋を支配しますが、その他にも肩峰下滑液包や三角筋下滑液包、肩関節外側の感覚、腋窩関節包なども支配しています。また、前枝は上腕二頭筋長頭や横靱帯も支配するとも述べられています。

 

腋窩神経について、簡単に復習したところで、「なぜ?肩関節外転制限に腋窩神経が関与するのか?」について検討していきたいと思います。

 

2.腋窩神経は肩関節外転位で緊張する

 

腋窩神経は肩関節外転位(+外旋)で緊張すると述べられています。つまり、腋窩神経の動きが制限されている場合、肩関節外転制限に関与します。

 

 

特に腋窩神経の動きが制限されやすい部位として、QLSが挙げられると思います。QLSは小円筋・大円筋・上腕三頭筋・上腕骨から構成される四角形のスペースになります。

 

 

肩関節を外転することでQLSのスペースが減少すると考えらており、QLSを構成する筋(小円筋・大円筋・上腕三頭筋)の短縮や疎性結合組織の問題が生じると、腋窩神経を絞扼し、外転制限に繋がると考えらえます。

 

 

また、腋窩神経の絞扼により動きが制限されると、腋窩神経の緊張が増大し、支配領域である上腕外側に疼痛が出現し、疼痛に伴う肩関節外転制限が出現する可能性もあります。

 

 

この様に肩関節外転時にQLSのスペースが減少する点や腋窩部では小円筋、大円筋、上腕三頭筋の短縮が生じているような場合、腋窩神経が絞扼され肩関節外側部に疼痛が出現する場合があります。

 

もし、QLSで腋窩神経に問題が生じている場合、同部位に圧痛が生じることが多いです。また、小円筋や大円筋、上腕三頭筋に圧痛が認められることが多いです。

 

3.三角筋下滑液包の影響

 

滑液包は摩擦や圧縮ストレスを減少させ、関節を滑らかに動かすために重要な組織になります。肩関節の主な滑液包は、肩峰下滑液包と三角筋下滑液包であり、人体で最も大きいと述べられています。

 

三角筋下滑液包は三角筋と上腕骨の間に存在しており、腋窩神経に支配されています。そのため、肩関節外転時の三角筋と腋窩神経の摩擦や圧縮ストレスを軽減する役割があると考えられます。

 

 

しかし、腱板損傷などにより腱板筋の機能不全が生じているような場合、三角筋が過度に収縮することで、三角筋下滑液包と滑液包を支配する腋窩神経を過度に圧縮し、肩関節外側に疼痛が出現する可能性があります。

 

三角筋下滑液包に問題が生じている場合、エコーで三角筋と上腕骨の間の結合組織の肥厚が認められたり、同部位に圧痛が認められることが多いです。

 

 

三角筋下滑液包由来の疼痛は上腕のより遠位まで生じる可能性があり、腋窩神経後枝の障害で出現する上腕外側の疼痛と範囲が異なると考えられます。疼痛の範囲で腋窩神経後枝の疼痛なのか?滑液包の由来の疼痛なのかを判断できるかもしれません。

 

4.腋窩神経遠位部での圧縮

 

腋窩神経が三角筋に挿入する部分には疎性結合組織が存在します。つまり、同部位は柔らかく、ある程度動く必要がある部位と考えることが出来ます。

 

 

しかし、三角筋の過剰収縮や疎性結合組織の問題が生じると腋窩神経に加わるメカニカルストレスが増大するため、疼痛が生じる可能性があります。この場合、三角筋自体に圧痛が生じることが多いです。

 

三角筋の過剰収縮は腱板断裂や凍結肩による場合に出現することが多いです。腱板断裂による三角筋の過剰収縮は肩甲骨周囲の機能や断裂していない腱板筋群の代償により改善できる可能性があります。凍結肩による、三角筋の過剰収縮は腋窩陥凹や後方関節包の柔軟性を改善し、可動域制限を改善することで、徐々に改善できる可能性がありますが、時間を要すると思います。

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