人間は進化の過程で直立二足歩行を獲得し、日常では意識せずに効率的な歩行を実施することが出来ます。これには、Central Pattern Generator(CPG)が関与しており、歩行などのリズミカルな運動の出力する神経回路と考えられています。
また、神経回路からの出力だけでなく、重力を利用した推進力(エネルギー保存の法則)を用いて、歩行を実施しています。
実際、重力のみで歩行を行っているロボットモデルも存在しますが、私たちが生活する環境下においては、重力のみでは歩行は出来ないため、脳からの出力も重要になります。
この様に、私たちの歩行は脳からの出力と重力エネルギーを効率的に利用することで、歩行を実施しています。
しかし、一度身体に重大な障害が生じると効率的な歩行を行うことが出来なくなってしまいます。今回の記事では、”足部に骨折が生じるとどのような歩行パターンに変化してしまうのか?”を検討し、変化した歩行パターンへの介入方法も考えていきたいと思います!
1.歩行周期
一般的な歩行について私なりの解釈も含めて記載していきます。まず、正常な歩行周期では立脚期は5つのフェーズに分けられます。
・イニシャルコンタクト:脚が地面に接地する瞬間 (歩行周期の0%)
・ローディングレスポンス:イニシャルコンタクトから反対側の脚が離れた瞬間まで
・ミッドスタンス:反対側の脚が地面から離れた瞬間から観察脚の踵が床から離れた瞬間まで
・ターミナルスタンス:観察脚の踵が床から離れた瞬間から反対側のイニシャルコンタクトまで
・プレスイング:反対側のイニシャルコンタクトから観察脚のつま先が床から離れた瞬間
正常な歩行周期では遊脚期は3つのフェーズに分けられます。
・イニシャルスウィング:観察脚のつま先が床から離れた瞬間で、両脚の下腿が矢状面で交差した瞬間
・ミッドスウィング:両脚の下腿が矢状面で交差した瞬間で、遊脚肢(観察脚)の下腿が床に対して直角になった瞬間
・ターミナルスウィング:遊脚肢(観察脚)の下腿が床に対して直角になり、観察脚の足が床に触れた瞬間
それぞれの歩行フェーズには役割が存在し、衝撃吸収や推進力の生成などがあります。
上記のように、正常歩行ではそれぞれのフェーズ毎に役割があり、効率的な歩行を達成できるのですが、足部に骨折が生じると瞬く間に歩行が困難となり、その後の歩行パラメーターにも影響を与えます。
では、足部の骨折後には一体どのような変化が歩行に生じるのでしょうか?
2.足部の骨折が生じると歩行パラメーターの変化
足部に骨折が生じると”歩行速度、歩幅、スイング時間、片脚支持時間、ストライド長、ケイデンス、遊脚時間の短縮、体幹の動きの対称性(特に垂直方向)が大幅に減少する”と報告されています。
足部の骨折が生じると多くの障害が出現することがわかります。その中から、”足部の骨折と歩行速度”について検討していきたいと思います。
2-1.足部骨折と歩行速度
歩行速度に寄与する要因は多くありますが、足部の骨折に関係するものであれば「関節可動域」「筋力」「感覚」が挙げられると思います。
まずは「関節可動域」について考えていきたいと思います!
いくつかの報告では、足部骨折後には足関節底背屈の可動域が制限されており、特にミッドスタンス~ターミナルスタンス・プレスイングの足関節底背屈の可動域の減少が報告されています。歩行速度も健康な被検者と比較して遅かったと報告されています。
では、ミッドスタンス~ターミナルスタンス・プレスイングの足関節底背屈可動域はどの程度必要なのでしょうか?
・ミッドスタンス:背屈5°
・ターミナルスタンス:背屈10°
・プレスイング:底屈15°
ミッドスタンス・ターミナルスタンスで足関節背屈が生じることで、底屈筋群が遠心性に伸張され、下腿を安定化させるとともにエネルギーが蓄積されます。下腿三頭筋や長趾屈筋・長母趾屈筋の活動が最大となります。
プレスイングでは下腿三頭筋の残存的な求心収縮と蓄積されたエネルギーが放出され、足関節が底屈して下腿を前方に振り出します。つまり、歩行におけるエネルギーの蓄積と放出には背屈可動域が10°、底屈可動域が15°あれば確実と言えそうです。
続いて「筋力」について考えていきます。