トレンデレンブルグテストは皆さんご存じですが?
このテストは股関節の先天性脱臼の結果として生じる、臀筋の静的機能不全を評価するテストになります。
トレンデレンブルグテストにはいくつかのバリエーションがあり、現在は変形性股関節症と股関節外転筋群の衰弱をスクリーニングするために使用されています。
一般的に使用されている方法は、非立脚側の股関節を約 30° 屈曲し、続いて非立脚側の骨盤をできるだけ高く挙上します。骨盤を30 秒間最大挙上できない場合、股関節外転筋の弱化と見なされ、レンデレンブルグテスト陽性となります。
このように股関節外転筋群の機能低下に由来し、歩行中に骨盤の保持が出来ず、骨盤が傾斜が出現する異常歩行をトレンデレンブルグ歩行といいます。
「トレンデレンブルグ歩行」は学生時代からなじみのある言葉で、臨床実習でも特徴的な歩行であることから、動作分析などでピックアップされることも多いと思います。
トレンデレンブルグ歩行は「歩行周期の遊脚期で足が持ち上がったときに、骨盤が非支持へ傾斜する」と説明されています。なので、私は荷重応答期(LR)~立脚終期(TS)までに生じるものと解釈しています。
トレンデレンブルグ歩行の評価としては静止画像、または動画が有用だと考えています。陽性の明確な基準は確立されていないですが、立脚期の最大骨盤降下が8°以上の場合を「陽性」としたという報告があるので、参考にしてみてもよいかもしれません。
ここまでの内容だと、トレンデレンブルグテスト陽性、歩行時に骨盤降下が認められたら、殿筋群の機能低下があると考え、殿筋群の筋力を評価するのが一般的だと思います。
しかし、いざ殿筋群の筋力を評価してみると、特に筋力低下は認めず、エコーで筋厚を確認してみても、萎縮している状態を確認できることは少ないです。
また、Kendallらは重度の股関節外転筋力低下でも有意な骨盤降下を認めなかったと報告し、股関節外転筋力の低下はTrendelenburg signを説明するには不十分であると述べています。
つまり、殿筋群の機能低下はトレンデレンブルグ歩行の原因の1つの要因の可能性はありますが、殿筋群の機能低下がトレンデレンブルグ歩行の原因の全てではないということになります。
では、トレンデレンブルグ歩行を考えるうえで「殿筋群以外に何が重要になってくるのでしょうか?」
今回の記事では、殿筋群の影響とそれ以外の要因で生じるトレンデレンブルグ歩行について、私の考えも含め記載していきたいと思います。
1.殿筋群の機能低下
まずはトレンデレンブルグ歩行の一番メジャーな原因である、殿筋群について考えていきます。殿筋群は荷重応答期(LR)や立脚中期(MS)それぞれで生じるトレンデレンブルグ歩行に寄与していると考えています。
荷重応答期(LR)に生じるトレンデレンブルグ歩行は踵接地が認められず、足底接地から入るパターンに多い印象です。踵接地があることで、大殿筋・中殿筋の筋活動が高まります。
しかし、踵接地がなく足底接地から歩行が始まる場合、殿筋群が活動を高める期間がありません。そのため、大殿筋・中殿筋の十分な収縮が得られずトレンデレンブルグ歩行が出現する可能性があります。
例えば、股OAの屈曲制限や膝OAの伸展制限が生じていると…
踵接地できず、足底接地から歩行が始まる
↓
大殿筋や中殿筋の筋活動が十分に高まらない
↓
股関節内転-内旋させ、殿筋や外旋筋群の受動張力を高める
↓
トレンデレンブルグ歩行が出現といった考察ができるかもしれません。
また、踵接地では大・中殿筋の速い収縮が必要になると考えられ、速筋線維の働きが重要になると考えられます。筋萎縮は速筋から生じるため、殿筋の収縮する速さ+強さも考える必要があると思います。
このように、立脚中期(MS)で生じるトレンデレンブルグ歩行は殿筋群の機能低下が影響していると考えています。また、立脚中期(MS)では、中殿筋以外にも着目しなければならない筋肉が存在します。
股関節外転(片脚立位)における、中殿筋と小殿筋、大腿筋膜張筋の筋出力比率は4:1:1と報告されており、筋出力では中殿筋の機能が重要と考えられます。しかし、片脚立位時には小殿筋の筋活動が2つの筋よりも優位に高くなると報告されています。
小殿筋は大腿骨頸部と平行に走行しており、収縮ベクトルは求心位方向に向いているため、股関節の安定性には重要と考えられます。そのため、トレンデレンブルグ歩行を考える際には大殿筋、中殿筋、小殿筋すべての殿筋群の機能を考慮する必要があると考えられます。
https://theraview.jp/various-roles-gluteus-minimus/
2.深層外旋筋群の機能低下
股関節深層外旋6筋(梨状筋・内閉鎖筋・外閉鎖筋・上双子筋・下双子筋・大腿方形筋)は骨頭を求心位に保つ作用があります。外旋筋群による安定性が低下すると、中殿筋や小殿筋のより強い筋出力が必要になります。
しかし、中殿筋や小殿筋が萎縮していることが多い、変形性股関節症や高齢者では筋力を代償することが出来ず、立脚中期にトレンデレンブルグ歩行が出現する可能性があります。
外旋筋群の中でも、特に外閉鎖筋が重要と私は考えています。