肘の解剖から外側上顆炎を考える ~原因となる組織は?~

 

 

”外側上顆炎(別名:テニス肘)”
実際、テニスをしていない人にも生じる疾患

 

私が勤務しているクリニックにも多くの外側上顆炎の患者さんが来院されますが、テニスで外側上顆炎を発症した方には未だに出会ったことはありません。どちらかというと、”デスクワークや現場仕事”に従事している方に多い印象があります。

 

 

一般的に外側上顆炎は過剰なストレスが加わることで生じると考えられています。では、外側上顆炎はどのような組織に過剰なストレスが加わると発生するのでしょうか?

 

 

今回は肘関節の解剖から外側上顆炎の原因となる組織、組織に加わる過剰なストレスについて考えていきたいと思います!

 

 

 1.外側上顆炎とは?

 

外側上顆炎は“enthesopathy”と考えられており、筋肉だけでなく、腱や靱帯、または他の軟部組織が骨に付着する部位の障害を指し、幅広い病態を含みます。しかし、すべての組織について考えていると莫大な量になってしまうので、今回の記事では外側上顆周辺に存在する筋肉を中心に考えていきます!

 

 

上腕骨の外側上顆に付着する筋肉は”長・短橈側手根伸筋、総指伸筋、小指伸筋、肘筋、回外筋、尺側手根伸筋”があります。

 

 

外側上顆に付着する筋肉の中でも、”短橈側手根伸筋(ECRB)”が外側上顆炎に関与すると考えられています。別の報告では、長橈側手根伸筋や総指伸筋も関与するとも記載されています。

 

 

ECRB腱は線維軟骨性に付着しており、ストレスが生じやすい部位と考えられています。そして、ECRB腱は肘関節の外側側副靭帯および関節包、輪状靱帯と融合し、ストレスを共有するメカニズムを持っています。

 

 

また、ECRBは総指伸筋(EDC)の示指・中指の筋線維の起始であり、EDCからの張力も伝達されると考えられます。つまり、ECRB腱は多くの組織へ張力を伝達する一方、多くの組織から張力が加わる組織であるということがわかります。

 

 

エコーで見ても、ECRBEDC(総指伸筋)が隣接していることがわかり、お互いの張力を伝達しあう可能性が考えられます。このような解剖学的な関係から、ECRBの短縮や周辺組織から加えられる張力の関係性を考えると、ECRBへの張力の増加は外側上顆炎に関与していると考えられています。

 

 

ここまでをまとめると、ECRB腱に一番ストレスが生じやすく外側上顆炎に関与している筋肉です。また、ECRBはEDCや肘関節の外側側副靱帯、関節包など多くの組織からも張力が加わると考えられるため、ECRB腱に隣接する組織との関係性も考える必要があります。

 

 

2.外側上顆に加わるストレスは?

 

ECRBやEDCは手関節の底背屈や手指の屈曲伸展、靱帯や関節包で言えば肘の内外反の影響を受けるかもしれません。そうなると、”デスクワークでは前腕回内位でのマウスクリック、現場作業のハンマーやドライバー操作”などは外側上顆炎の原因となることは容易に想像できます。

 

また、ECRB腱の深層は前腕の回内外の際に上腕骨小頭の外側縁に接触し、摩擦をストレスを受けやすいため、損傷が生じやすい可能性があります。エコーで確認してみると、ECRB腱に摩擦ストレスが加わっている様子がなんとなくではありますが観察できます。

 

 

 

筋肉の中でも、私はもう1つ着目している筋肉があります。それは”回外筋”です。回外筋は外側上顆に付着している筋肉ですが、肘関節包や輪状靱帯肘筋、総指伸筋、短橈側手根伸筋のそれぞれの腱膜と連結しています。

 

 

回外筋はECRBや総指伸筋、関節包や靱帯と連続しており、牽引力が回外筋に生じると外側上顆への牽引力も増大します。つまり、デスクワークの前腕回内でのマウス操作は回外筋の張力を増大させ、外側上顆炎を引き起こす可能性が考えられます。

 

 

そのため、回外筋の短縮や拘縮は外側上顆への牽引力を増大し、外側上顆炎の発症に繋がる可能性があります。また、回外筋の短縮や拘縮は”wrap around構造”へ影響を与える可能性があります。

 

wrap around構造とは、身体の多くに存在しており、筋や腱が骨を介してカーブし、テコのようになっている部分を言います。wrap around構造は付着部の牽引ストレスを減少させる機能があります。足部でいうと長腓骨筋の走行が変化する部位や前距腓靭帯が”wrap around構造”を呈しています。

 

 

肘関節でいうと、ECRBと橈骨頭の関係が”wrap around構造”になります。前腕回内位にて橈骨頭が外側に偏移することで、ECRBの付着部に生じるストレスの軽減させる機能があります。

 

 

回外筋の短縮や拘縮が生じると、橈骨頭の外側偏移が抑制され、”wrap around構造の機能が働かず、ECRB付着部へのストレスが増大することで、外側上顆炎の発症に繋がる可能性があります。

 

このようにECRBと回外筋の短縮や拘縮は外側上顆に生じる張力を増大させる可能性があります。そのため、ECRBや回外筋の柔軟性を引き出すストレッチや徒手療法も重要になると考えられます。

 

 

wrap aroundを意識した橈骨頭と回外筋への介入

前腕の回内時に橈骨頭を外側へ徒手にて誘導します。また、肘関節後面まで回外筋が存在しているため、橈骨頭を背側に滑らせるようなイメージで徒手誘導することで、回外筋の柔軟性も引き出す介入も実施します。

 

 

 

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