腰痛は日本だけでなく、世界的に主要な筋骨格系疾患と位置付けられています。そして、腰痛は日常生活に影響を与え、経済的・社会的な負担を増大させる要因と考えられています。
特に日本では腰痛は国民病といっても過言ではなく、医療費の負担を逼迫させている1つの疾患です。そのため、腰痛を改善することはセラピストの至上命題と言ってもよいでしょう。しかし、腰痛を改善することは容易ではありません。腰痛は複数の要因から生じると考えられており、どの要因が大きく関与しているのかを考え評価する必要があります。
ですが、腰痛の評価は一筋縄ではいかず、確率された評価方法は少ないです。例えば、腰痛があれば実施されることが多い画像検査ですが、「画像の異常と腰痛は関連しない」と報告されています。
では、画像検査は必要ないのかというとそうではありません。画像を見ることで「レッドフラッグスの発見」や「どの腰椎レベルに負担が加わっているのか?」などを推測することもできます
画像ツールのなかでも、エコーは有用な画像評価ツールです。放射線を使用しないため、経時的な変化や収縮機能を確認する意味では重要な画像所見が得られる可能性があります。また、エコーは手軽に使えるため、評価だけでなく介入においても有用です。
これからシリーズ記事として、腰痛と「多裂筋・腹横筋」「胸腰筋膜」「椎間関節・仙腸関節」のそれぞれのエコー画像について解説し、どの所見が腰痛を改善するにあたりヒントになるのかを検討したいと思います!
今回の記事は腰痛と「多裂筋・腹横筋」についてになります。
1.多裂筋の解剖を復習
多裂筋はLong fiber(2つ以上の脊柱、乳様突起に付着)とshort fiber(2つの脊柱、椎間関節に付着)の2つの筋線維に分類されています。
Long fiberはモーメントアームが長く、腰部の運動に関与する割合が大きいと考えられ、Short fiberは遅筋線維が多く、モーメントアームが短いため、腰部のスタビリティに関与すると考えられています。そして、多裂筋は両側性に収縮すると腰椎を伸展させ、一側性に収縮すると同側側屈、対側回旋が生じます。また、骨盤前傾・腰椎前弯角度にも関与していると考えられています。
また、多裂筋の解剖学的な特徴として、上位腰椎レベルより下位腰椎レベルで筋断面積が大きくなります。
脊椎の中で腰椎は大きく動く部位になり、特に、L5-S1レベルは良く動く部位です。「よく動く=それを支持する組織が必要」ということになります。つまり、下位腰椎レベルで多裂筋の筋断面積が大きい理由として、よく動く部位を安定させるためと解釈することができます。
実際、「多裂筋は体幹のコルセットの様に作用し、腰椎の分節安定化に重要な役割を果たす」と報告されており、下部腰椎レベルで筋断面積が大きく、安定性に寄与していることが想像できます。
さらに、脊柱起立筋の中で、腰部多裂筋は脊椎の安定化に独特の役割を果たし、腰椎下部では安定性のほぼ2/3に寄与すると考えられています。
そのため、多裂筋の機能低下は安定性が減少、椎間関節や椎間板に過剰なストレスが生じ、障害に繋がる可能性があります。また、多裂筋のような深層筋の機能低下が生じると、遠心性負荷が増大するだけでなく、表層筋への負荷も増大するため、二次的な腰痛の出現に繋がる可能性があります。
2.多裂筋のエコー画像
多裂筋は棘突起のすぐ外側に多裂筋が存在し、最長筋、腸肋筋と外側に存在します。腰椎レベルでエコー描出する際は棘突起の隣、または3つの筋が連続して、並んでいることを覚えておきましょう!
多裂筋を長軸でエコー撮影すると、表層と深層で多裂筋の線維の長さに差があるように見えます。表層がLong fiber、深層がShort fiberです。
多裂筋を短軸描出すると下位腰椎レベルで筋断面積が大きいことが視覚的にもわかります。下位腰椎レベルで多裂筋の筋断面積が大きいのは脊椎の動きに関連すると考えられます。
多裂筋の境界がわかりにくい場合、頸部伸展、肩関節屈曲を行うと多裂筋が収縮するため、自動運動を取り入れながら描出してみてください!腰痛がある場合はこの方法を用いて多裂筋の機能を評価するのも1つです。
3.多裂筋の評価
腹臥位で頸椎の伸展や肩関節屈曲を行い、その際に多裂筋の収縮を腰部で徒手にて評価します。エコーで確認できるとさらに客観的になると思います(先ほど紹介したエコー動画と一緒)。
その他に多裂筋の機能を評価する方法として、The multifidus lift test (MLT) があります。MLTはエコー評価との間に関連性が認められているため、エコーが無い場合の多裂筋の評価として用いることができると考えられます。MLT変法として、4つ這いでの下肢挙上、立位での上肢挙上で多裂筋の収縮を確認する方法もあります。
その他の評価として、多裂筋の圧痛、体幹前屈時の疼痛、体幹伸展時の圧縮感なども確認します。レントゲン画像所見では特に異常が認められないことも多いです。
4.腰痛における多裂筋のエコー評価
腰痛がある場合、「多裂筋の断面積が減少する」「エコー輝度が上昇している(脂肪変性)」などの報告が存在します。このような所見が腰痛の結果なのか?原因なのかは不明ですが、臨床上よく遭遇する所見の一つです!
慢性腰痛では多裂筋の萎縮はよく見られる所見(約80%)で、下部領域に限局していることが多いです。多裂筋はL4-5レベルにおいて、剛性の3分の2以上の増加に寄与していると報告されているため、エコーで断面積を評価する際には、下位腰椎レベルの評価が必要と考えられます。
面白い報告として「腰椎椎間板ヘルニアにおけるステージ別の多裂筋の影響」は興味深いです。ヘルニアの突出と隔離の患者では、安静時と収縮時の両方で多裂筋のサイズに有意な減少が観察されました。そのため、腰痛による問題なのか?ヘルニアよる原因なのか?それとも両方の原因なのか?を考えながら、多裂筋を評価し、状況を考えていく必要があります。
5.多裂筋のトレーニング
多裂筋のトレーニングにはいろいろな方法があります。私はまずは徒手介助を用いた練習から実施することが多いです。下の図のように、徒手的に骨盤前後傾を誘導し、言語的な入力も実施します。また、電気刺激(ハイボルテージ)を用いることも多いです。
自主トレーニングとしては、セラバンドを用いた方法やバード&ドッグなどを指導することが多いです。
※臨床で注意していること
・ポイントはゆっくり&小さな力で実施することです。基本的に深層に存在する筋肉は遅筋であることが多いため、速く強く収縮することはできません。
・多裂筋の横断マッサージを実施することで、柔軟性が改善し、多裂筋の収縮が得られやすくなることもあります。
ここまでが多裂筋についてになります。続いて腹横筋に移ります。
会員専用となっています。会員の方は こちらからログインしてください。. 新規会員登録はこちらへお進みください。