以前の記事で「腰痛とエコー画像 ~エコーから何がわかる?~ 多裂筋・腹横筋編」について記載しました。今回は「胸腰筋膜編」になります。
腰痛を考える際、椎間関節や仙腸関節、多裂筋や腹横筋の影響を考えることは多いと思います。では、胸腰筋膜の影響を考えたことはありますか?
ちなみに私は臨床において、胸腰筋膜性の腰痛は第一選択として考えることはほとんどありません。ですが、疫学から考えると「腰部筋膜性疼痛」は「腰椎椎間関節疼痛」の次に多いと報告されています。
「腰部筋膜性疼痛」は一概に「胸腰筋膜」だけを指しているものではありませんが、胸腰筋膜が腰痛の要因となっている場合も少なからず、「ある」と考えることが出来ます。
※論文の解釈の注意点
腰痛のある方を横断的に評価し、診断している論文であり、レントゲン所見や身体的検査の結果が腰痛にどの程度、関連しているのかは不明です。また、エコー、CT、MRIは実施しておりません。
では、胸腰筋膜は腰痛にどのように関与しているのでしょうか?
"今回の記事では、胸腰筋膜の解剖やエコー画像から腰痛との関係性を考えていきたいと思います!"
1.胸腰筋膜の解剖の復習
胸腰筋膜は腰背部を幅広く覆う結合組織で、2層または3層から構成されると考えられています。2層、3層の考え方はほとんど一緒で、それぞれ層の名称が異なるだけと考えてもよいと思います。
胸腰筋膜は広背筋、腰方形筋、脊柱起立筋だけでなく、多くの筋肉と連続します。さまざまな体幹、下肢の筋肉が胸腰筋膜に連続し、組織間の張力と体幹の剛性を調整する役割を果たします。
また、胸腰筋膜のPosterior layerとMiddle layer、脊柱起立筋の筋膜鞘で構成される「LIFT」という部分があります。この「LIFT」は横方向の張力分散、深層と中間層の間の摩擦を減らす役割があると考えられています。「LIFT」は脂肪組織であるため、血管や神経も存在している可能性が高く、疼痛を感じる部位とも考えられます。
また、胸腰筋膜にも微細な血管や神経が存在しています。面白いことに、胸腰筋膜には交感神経系も分布していることが報告されています。交感神経が存在するということは「腰痛のある患者が心理的ストレス下にあるときに疼痛の強度が増した」という報告する理由を説明できる可能性がありますね!
さらに、胸腰筋膜への刺激は皮下組織や筋肉よりも疼痛の持続、強い疼痛が生じる可能性があります。また、鋭痛、鈍痛どちらも感じ取る侵害受容器が存在していることも着目点です。
2.胸腰筋膜の機能
組織間の張力と体幹の剛性を調整する役割があります。その他には、脊椎が完全に屈曲した状態になると、胸腰筋膜の長さは中立位から約30%増加します。胸腰筋膜が遠心性に身体を支持していると考えられます。この張力は頭部を持ち上げる、または体幹を元に戻す際に必要な筋収縮のレベルを下げるためにも重要です。
また、胸腰筋膜は腹横筋と共同して、仙腸関節の安定性を増加させる可能性が報告されています。
脊柱や仙腸関節の安定性に関与する以外の機能としては、片側の広背筋と反対側の大殿筋間の力の伝達や上肢と下肢の対側振り子運動(歩行等)に寄与する可能性があります。
歩行における荷重伝達や歩行のリズム、速度を考えるうえでも着目ポイントになりそうです!大殿筋の機能低下が生じると、胸腰筋膜への負担も増加するかもしれません。
この様に胸腰筋膜は解剖学的に多くの組織と連続していることや多くの機能的役割があるため、腰痛にはかなり関与する組織なのではないかと考えることができます。