肩関節は多くの筋肉が働き、屈曲・外転・回旋等の運動が生じます。肩関節の運動に関与する筋肉は多くあり、一定の作用を持つ筋肉と関節角度によって作用が変化する筋肉もあります。
関節角度により、作用が変化する筋肉はどの関節にも存在します。例えば、股関節でいうと代表的なものが梨状筋や大内転筋が挙げられます。梨状筋は股関節屈曲角度が増大すると「股関節外旋→内旋」へと変化します。大内転筋も股関節屈曲角度が増大すると「股関節屈曲→伸展」へと作用が変化します。
肩関節の腱板筋群を例に挙げると、「棘上筋は肩関節屈曲・外転で内外旋の作用が変化する」という報告や「小円筋は外転角度により、内外転の作用が変化する」という報告があります。
このように、ある一定の作用を持つ筋肉と関節角度が変化すると作用も変化する筋肉が働くことで、肩関節の動きが生じています。この作用が切り替わる筋肉を知っているだけでも、動作の評価・介入の幅は広がると思います。
そこで、今回は「肩関節の位置により作用が切り替わる腱板筋群のモーメントアーム」に着目して、どの筋肉の作用が変化し、どの関節角度で作用が切り替わるのかを考えていきたいと思います!
1.初めに...モーメントアームとは
モーメントアームとは支点から力の作用点に下ろした垂線との距離のことを言います。そのため、力が生じる作用点が変化すると、モーメントアームの長さ(距離)も変化します。
このモーメントアームと作用点の力を掛け算(積)するとトルク(回転力)を求めることができ、関節に働く力の大きさがわかります。掛け算のため、モーメントアームが長さが長ければ、関節トルクは大きくなります。
それでは、腱板筋群のそれぞれのモーメントアーム(冠状面・肩甲骨面上・矢状面・回旋)を提示し、作用が変化する点に着目し、記載していきます!
2.棘上筋のモーメントアーム
棘上筋は冠状面(前額面)では、初期に大きな外転モーメントアームを持つので、外転作用があると考えられます。しかし、肩関節外転関節角度が増大するにつれて、モーメントアームは減少しているため、外転作用は減少していくと考えられます。
肩甲骨面上では、棘上筋は外転モーメントアームを持つため、外転作用があると考えられます。しかし、90°を越えると内転モーメントアームを持つ可能性があります。
矢状面における棘上筋のモーメントアームは矛盾した報告があります。常に屈曲モーメントアームを持つというものと、屈曲角度が増大するにつれて伸展モーメントアームを持つという報告が存在します。
棘上筋は肩関節屈曲30°までは筋活動が高いという報告があります。モーメントアームからみても、初期に棘上筋には屈曲作用があることはわかります。肩関節屈曲30°以降は三角筋の筋活動が高まるという報告があり、モーメントアームが減少することからも納得がいきます。
水平面上では、上肢中間位で棘上筋は内旋モーメントアームを持つと報告されています。
しかし、関節肢位によって棘上筋の作用が変化する可能性があります。ある報告では、棘上筋は外転時には主に外旋筋(棘上筋後部)、屈曲時には内旋筋(棘上筋前部)と報告されています。私は、付着部(大結節)の位置の変化によって作用が異なるのではないかと考えています。
棘上筋をまとめると...
・冠状面では棘上筋は外転作用
・矢状面上では初期は屈曲に作用
・回旋は中間位では内旋作用、肩関節の肢位により、内外旋の作用が変化する可能性がある。
棘上筋は肩関節外転・屈曲の初期に大きなモーメントアームを持つため、支点形成力に重要と考えられます。 肩関節の挙上運動の初期に疼痛や不安定性を訴える場合、棘上筋は介入ポイントになるかもしれません。