以外かもしれませんが、踵の痛みは整形外科領域では一般的な症状であり、年間100万件以上の外来患者を占めていると言われています。成人の有病率は1/10人で意外に多いことがわかると思います。
踵の痛みを引き起こす組織には足底腱膜や踵骨下脂肪体、踵骨、末梢神経、腰部神経根などがあります。踵の痛みにに一番多く関連するのは足底腱膜になりますが、今回の記事では踵骨下脂肪体に着目して記事を記載していきます。
まず始めに「脂肪体とは?」について、私の考えも含めて記載していきます。脂肪というと皆さんは無い方がいいと考えられているかもしれませんが、有りすぎても無さすぎてもダメ組織と私は考えています。
脂肪体の役割は代謝や細胞の情報の伝達、自然免疫(皮下に存在することで、ウイルスや細菌をブロック)などの役割があり、重要な組織になります。そのため、脂肪が減りすぎるとこれらの機能が低下し、逆にありすぎると機能は維持されますが、代謝異常などが生じやすくなります。
筋骨格系に存在する脂肪体は少し役割が異なり、「神経・血管の保護」「組織間の摩擦軽減」「機械的衝撃を吸収する」といった機能があります。筋骨格系の脂肪体はいたるところに存在し、踵骨下脂肪体もそのうちの一つになります(名前が無いものも存在する)。
踵骨下脂肪体は一番衝撃が加わる部分に存在するため、衝撃吸収に適した構造を呈しています。また、踵骨下脂肪体は衝撃吸収以外にも役割があると考えられていますので、詳しく考えていきましょう。
1.踵骨下脂肪体の解剖
踵骨下脂肪体はハチの巣状(ハニカム構造)で線維弾性組織になります。踵骨下脂肪体は皮膚や骨に付着することで、しっかりと固定されています。
ハニカム構造とはミツバチの巣を思い出していただくと良いと思います。ハニカム構造(正六角形)は組織を平面に隙間なく敷き詰めることができ、「力の分散」においてメリットがあります。
強度で言えば三角形を敷き詰めた方が強いですが、三角形は2つの面に接しているのに対し、六角形は5つと接する面の数が多いため、その分衝撃吸収性に優れています。
さらに詳しく説明すると、踵骨下脂肪体はいくつかのパッドで構成されており、体重の分散と圧力の減衰に重要です。そして、高圧に耐えるために、踵骨下脂肪体はコラーゲンとエラスチンが豊富な線維性隔壁によって個別の小球に分散しています。
そして、強力なストレスに耐えうるために、脂肪球を含む表層のMacrochamber層と深層のMicrochamber層に分けられます。Macrochamberはより大きく動くため、衝撃吸収や骨との摩擦を軽減するために働くと考えられ、Microchamberは動きが少なく、Macrochamberの動きを外側から補強していると考えられます。
もう一点重要なことがあります。それは、脂肪体の神経支配です。踵骨下脂肪体は脛骨神経から分岐する枝によって、内外側を支配されています。そして、分岐した神経は血管と共に脂肪体の深層(真皮の直前)まで入り込んでいます。
また、踵骨下脂肪体にはパチニ小体や自由神経終末も存在しているため、脂肪体自体も感覚器としての役割を果たしていると考えられます。
2.踵骨下脂肪体の機能
踵骨下脂肪体の主たる機能は「衝撃吸収」です。
ある報告によると、歩行中の衝撃は体重の約110%と述べられており、踵骨下脂肪体はこのエネルギーの80%を吸収するとも報告されています。これはさすがに言い過ぎと思ったで、他の報告を読むと歩行時に踵にかかる接触力の20%~25%を踵骨下脂肪体が吸収していると述べているため、衝撃吸収において重要なことは間違いないと思います。
では、歩行時に何度も何度も踵に衝撃を受けていると脂肪体自体に変性が生じないのかが疑問になりますよね?
先ほど、踵骨下脂肪体は「ハチの巣状」の構造を呈していると記載しました。内部に中隔(区画)を持つ脂肪体は変形に抵抗する能力が他の脂肪体よりも高いと報告されています。
この変形しにくい構造があるため、脂肪体は左右に広がりながら(一定の形を維持する)、衝撃吸収をしています。しかし、中隔(区画)が破壊されると、脂肪体は圧縮に対する抵抗力が弱くなり、変形し衝撃吸収機能も低下してしまします。
踵骨下脂肪体の中には神経や自由神経終末も存在しているため、衝撃吸収機能も低下し、局所的なストレスが増大すると、踵の疼痛に繋がる可能性もあります。
では?踵骨下脂肪体の機能が低下する原因には何があるのでしょうか?
3.踵骨下脂肪体の機能低下が生じる原因
踵骨下脂肪体の機能低下が生じる要因として、肥満や高齢、糖尿病(DM)、足底腱膜炎(PF)などが挙げられています。それぞれの要因について解説していきます。
3-1.肥満
過体重や肥満の方はより足部に負担が生じるため、踵に疼痛が出現するリスクが高くなります。また、肥満になると足圧の変化も生じ、下肢アライメント異常や足部への異常なストレスを引き起こし、脂肪体の障害や足底部痛だけでなく足底筋膜炎や膝痛などの多くの障害に繋がる可能性があります。
肥満や過体重は足関節だけでなく、膝関節・腰部にも影響を与えるため100害あって一利なしです。
3-2.高齢
踵骨下脂肪体は「1〜5歳から30〜44歳までは増加し、30〜44歳から80〜96歳までは減少した」と報告されています。中でも、Macrochamberの厚さは、「1~5歳から30~44年目にかけて増加し、その後減少しました」とあります。
つまり、衝撃吸収が主たる役割であるMacrochamberが減少しているため、高齢になると足底部痛が生じやすくなる可能性があります。足底部痛の好発年齢が40~60歳と考えると年齢の影響もかなり大きいことが考えられます。
3-3.糖尿病(DM)
踵骨下脂肪体を萎縮させる内部疾患として、2型糖尿病やSLE、関節リウマチなどいくつかあると考えられています。また、糖尿病性末梢神経障害の患者の足底の軟部組織は健常者よりも硬いことを明らかにした。
内部疾患も整形外科疾患に関与することも多いです(糖尿病と外側上顆炎、肩関節周囲炎など)。踵骨下脂肪体も例外でなく、内部疾患の影響を受ける可能性があります。足底部痛を考える際には、内部疾患も問診で確認すると良いかもしれません。
4-4.足底腱膜炎(PF)
足底腱膜炎の患者では、踵骨下脂肪体へ過剰なストレスが生じる可能性が考えられています。足底腱膜の微細損傷や炎症が生じることで、歩行や走行時に力・圧力を分散させる能力が低下し、踵骨下脂肪体に過剰なストレスが生じ、足底部痛を引き起こす可能性があります。
4-5.スポーツ活動
スポーツ活動時に衝撃や圧力が繰り返し生じたり、長時間にわたって継続的に生じることで、脂肪体の炎症が生じます。バスケットボール、バレーボール、陸上競技などの運動を実施している方に起こることが多いです。
繰り返し荷重がかかると、ヒールパッドの粘弾性が減少する可能性があります。粘弾性とは、物質が外部からの力や応力を受けると、一時的に変形し、一部は元の形状に戻るが、一部は持続的な変形を示すということです。
粘弾性が低下することで、踵骨下脂肪体は変形することができない、または変形したままの状態となり、衝撃吸収機能が低下すると考えられます。
また、踵骨下脂肪体の機能低下には
・線維膜の破壊
・水分含有量の喪失
・軟組織の弾力性の低下
などが関係すると考えられています。
踵骨下脂肪体の機能低下が生じている場合、粘弾性の低下や水分量の低下が生じるため、脂肪体の硬さは上昇していると考えることが出来ます。論文でも、足底のかかとの痛みを持つ患者のかかとの脂肪パッドの硬さは、健康な人よりも有意に硬いことが述べられています。
しかし、踵骨下脂肪体の厚みが減少するから疼痛が出現するのか、増大する疼痛が出現するのかは明確な判断が出ていません。
ある報告では、反復ストレスや炎症・変性、年齢により、踵骨下脂肪体の厚みが減少することで、衝撃吸収機能が低下し、足底部痛が生じると述べているものがあります。
一方で、足底の痛みに悩む患者では、踵骨下脂肪体がより多く存在することを報告しており、著者らは、踵骨下脂肪体の厚みが増すと弾力性の低下が生じると述べています。
この様な矛盾が生じています…
私の経験ですが、踵骨下脂肪体は減少しても、増大しても疼痛が出現すると考えています。減少していても衝撃吸収が出来る機能があれば疼痛に関与しないと思いますし、増加していても脂肪体自体が硬い場合、ストレスが過剰に加わるため疼痛が出現すると考えています。そのため、脂肪体の量ではなくて「質」で考えるようにしています。
会員専用となっています。会員の方は こちらからログインしてください。. 新規会員登録はこちらへお進みください。