腱板断裂の中でも、棘上筋の損傷は一番多い損傷です。外傷に伴う腱板損傷の報告では、形態学的分布を見ると、棘上筋が最も多く(84%)、次いで肩甲下筋(78%)、棘下筋(39%)が続きます。
では、なぜ棘上筋が一番損傷しやすいのでしょうか?
棘上筋が損傷しやすい原因を知り、負担が生じやすい動作、バイオメカニクスや筋活動の変化を知ることで、棘上筋へのストレスを軽減させ、棘上筋損傷の進行を緩徐にすることが出来るかもしれません。
今回の記事では、棘上筋の解剖と形態の影響を受けると考えられる、関節包側損傷を中心に記載し、滑液包損傷と私が考える腱板損傷の拡大予防についても記載したいと思います!
1.棘上筋の解剖・形態を復習
まずは簡単な復習です。棘上筋は肩甲骨の棘上窩から起始し、上腕骨の大結節に付着します。また、棘上筋は大結節だけでなく、小結節にも付着する(約20%)とも報告されています。以前は棘上筋は大結節のsuperior facetに付着すると考えられていましたが、棘下筋もsuperior facetに付着し、棘上筋の後方線維は棘下筋の前方線維に覆われています。
棘上筋の形態を見ていくと、前部線維と後部線維は分けられ、異なる2つの腱に付着します。それぞれ、形態的に異なる構造を呈しており、機能的な役割も異なると考えられています。棘上筋の前部線維は羽状構造で筋体積の75-86%を占めており、筋出力の大部分を生み出しています。後部線維は紡錘状構造で体積が小さく、前部線維より深層に位置するため、張力調整や固有感覚の受容に重要な役割を果たすと考えられます。
ここまでが基本的な棘上筋の解剖と形態の復習になります。ここから、さらに棘上筋の形態について深く考えて、「なぜ?棘上筋は損傷しやすいのか?」を考えていきたいと思います!
棘上筋は前部・後部線維に分けられるため、それぞれ付着する腱も異なります。下の表をご覧いただけると、棘上筋の前部線維は筋体積は大きいですが、腱の断面積は小さいことがわかります。棘上筋の前部線維と後部線維の筋断面積の比は2.45:1です。しかし、棘上筋の前部線維と後部線維の腱断面積の比は0.9:1です。つまり、前部線維の筋量は多いが、より小さな腱の断面積で引っ張られていることになります。
さらに、筋断面積と腱断面積の比は、前部線維では6.28±3.10ですが、後部線維では2.18±0.56となります。前部腱は後部腱より約2.8倍も大きな応力を受けていることになるということです。
簡単な模式図で説明すると、下の図のようになります。小さな腱が大きな筋に引っ張られると、小さな腱に生じる負担は大きいです。このような、棘上筋前部線維の形態から、損傷が生じやすいと考えることが出来ます。
腱板損傷の発生部位の報告を見てみると、kimらは、腱板の損傷は上腕二頭筋長頭腱の後方13~17mmが最も一般的な断裂位置であることを報告しています。Jeongらは、上腕二頭筋長頭腱の約10mm後方の領域から損傷が発生すると報告しています。この領域は棘上筋の前部線維、または前部線維と後部線維の境界と考えられ、棘上筋の形態的な特徴(負荷が生じやすい場所)と腱板損傷の発生部位がリンクしていることがわかります。
2.棘上筋の関節包側損傷の要因
棘上筋の損傷は滑液包側、関節包側、腱内損傷の3つのパターンがあります。損傷のメカニズムは異なると考えられていますが、組織的に損傷しやすい部位は
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