上肢の評価・介入動画 一覧

 

 

肩関節

 

棘上筋の機能評価(整形外科的テスト)

 棘上筋の機能評価として①Drop arm sign、②Empty can test、③Full can testを紹介します。ですが、この3つ評価は棘上筋だけを評価しているわけではないことを念頭においてください!

 

Drop arm sign(棘上筋を評価)

肢位:他動的に肩関節外転を保持

判定:肩関節外転位を保持できない、もしくは疼痛が出現した場合を陽性

感度:部分断裂14%、完全断裂78

特異度:部分断裂35%、完全断裂88

 

感度が低く、腱板損傷があっても陰性となる可能性があるため、Drop arm signだけでなく複合的に評価する必要があります。特異度は高いため、症状が出現した場合は腱板損傷を発症している可能性は高いと考えられます。

 

 

Empty can test(棘上筋を評価)

肢位:座位もしくは立位になり、肩関節外転90°、水平内転30°、肘関節伸展0°、前腕回内位

方法:前腕部に対して抵抗を加え、上肢の位置を保持(肩甲骨を固定した場合も実施する)

判定:上肢の位置を保持できない、もしくは疼痛が生じた場合を陽性

精度:感度3289%、特異度5082

(少し、肩甲骨の挙上による代償が生じています代償動作もチェックのポイントです!)

 

 

Full can test(棘上筋を評価)

肢位:座位もしくは立位になり、肩関節外転90°、水平内転30°、肘関節伸展0°、前腕回外位(親指が上)

方法:前腕部に対して抵抗を加え、上肢の位置を保持(肩甲骨を固定した場合も実施する)

判定:上肢の位置を保持できない、もしくは疼痛が生じた場合を陽性

精度:感度6686%、特異度5764

 

上記のテストはSSPの機能を評価すると言われていますが、肩甲骨の機能や姿勢も関わってきます。例えば、肩甲骨を徒手的に固定することでfull-can testempty-can testが陽性から陰性に変わることもあります。

 

 

こんな感じで変わります!

 

これは、SSPの機能が低下していたわけではなく、肩甲骨が不安定であったため、SSPが上手く収縮することが出来なかったと考えられます。姿勢でも同様で胸椎の伸展を引き出した状態で肩甲骨をリトラクション(内転)させることで、テストの結果が逆転することもあります。full-can testempty-can testで棘上筋機能だけでなく、肩甲骨の機能や姿勢の影響も一緒に評価する必要性があります。

 

棘上筋の評価兼介入

・筋収縮の確認

棘上筋は挙上30°~60°にかけて筋活動がピークとなるため、この角度でしっかりと棘上筋が収縮しているのかも確認しています。この角度で棘上筋の収縮を繰り返すことで、棘上筋のスパズムの改善や肩峰下での棘上筋腱の動きを改善させることもできると考えています。

 

 

 

棘上筋のスパズムの確認

肩関節内転制限が存在する場合、棘上筋にスパズムが生じていることがあります。棘上筋のスパズムの確認は僧帽筋を介して棘上筋の筋腹に押圧を加えます。押圧を加えて、痛みが出現するようであれば棘上筋にスパズムが生じている可能性を疑います。ポイントは僧帽筋の影響を出来るだけ取り除くため、肩甲骨を上方回旋させておくことがポイントになります。

 

 

棘上筋にスパズムが存在する場合、そのまま棘上筋に対して押圧を15秒程度加えたり、肩関節挙上30°~60°の範囲で自動介助運動を繰り返し実施し、リラクセーションを図ります。

 

 

棘上筋の伸張性の確認

棘上筋の伸張性を評価する際、背臥位では限界があるため、側臥位となり肩関節伸展内転を実施します。棘上筋の伸張性が低下、または短縮が生じている場合、手がベッド面に接地しません。この評価で気を付けるポイントは「肩甲骨をしっかりと固定する」とことです。肩甲骨を固定しないと、下方回旋の代償が生じ、正確な評価ができません。

 

 

この評価方法はそのまま棘上筋の伸張性を改善させる介入に繋がります。特に結滞動作の可動域を拡大させたい時や拘縮肩に伴う、挙上可動域の改善を図る際によく用いる方法になります。

 

 

棘下筋への介入

棘下筋は肩関節周囲炎で機能低下が生じやすい筋肉であり、臨床上、介入することが多い筋肉です。棘下筋への直接的な介入としては、筋腱移行部を介したストレッチ(Ib抑制)や1st内旋、水平内転のストレッチなどを実施します。棘下筋をより伸張させるため、肩関節伸展+内旋でのストレッチ(Obligate translationを防止した状態)や肩関節内旋の等尺性収縮(相反抑制)を実施し、棘下筋の順軟性を引き出す介入も実施しています。

 

 

 

また、棘下筋は三角筋あ菱形筋と隣接しており、それぞれの筋肉の影響を受ける可能性があるため、周辺組織への介入も同時に実施しています。三角筋で言うと、三角筋は棘下筋膜に付着しており、付着部周囲には疎性結合組織が存在しています。柔軟である疎性結合組織の拘縮が生じると、棘下筋・三角筋の両筋に影響を与え、可動域制限に繋がる可能性が高いです。

 

 

 

もし、1st外旋での棘下筋のリラクセーション、肩関節伸展+内旋での棘下筋のストレッチを実施している際に、上腕外側から後面にかけて痛みが出現する場合、棘下筋の動きだけではなく、肩甲上神経や周辺の疎性結合組織の動きを改善する徒手介入を実施します。介入方法は棘下筋に軽く押圧を加えながら、筋腹を近位-遠位、頭側-尾側に動かす介入を実施します。

 

 

小円筋の機能評価(整形外科的テスト)

小円筋の機能評価する整形外科的検査には、パットテスト(ホーンブロワー徴候)、ニーアドロップサイン、外旋ラグサイン、ヘルテルドロップサインがあります。私は臨床でパットテスト(ホーンブロワー徴候)、外旋ラグサインを確認することが多いです。

 

 

 

小円筋・大円筋への介入

肩関節周囲炎で小円筋や大円筋も短縮やスパズムが生じやすく、肩関節の可動域制限に関与することが多いです。小円筋や大円筋にスパズムや短縮が生じている場合、振動刺激や内外旋の自動介助運動、筋腹へのダイレクトストレッチ(Ib抑制)、Ia抑制(相反抑制)を用いた介入を行います。振動刺激は小円筋、大円筋の筋腹を把持し、腹側⇔背側にずらすようなイメージで実施します。

 

 

 

私は小円筋と大円筋のリラクセーションでは、肩関節3rdポジションで内外旋の自動介助運動を実施しています。また、小円筋と大円筋のダイレクトストレッチ(Ib抑制)は、肩関節水平内転で小円筋に押圧を加え、肩関節挙上位で大円筋に押圧を加えています。

 

 

 

 

小円筋のIa抑制は肩関節内旋の等尺性収縮(強度10~20%)を繰り返し実施し、大円筋のIa抑制は外旋の等尺性収縮を実施します。

 

 

 

肩甲下筋の機能評価(整形外科的テスト)

肩甲下筋の評価方法にはLift-off test、Belly press test、Bear Hug Testがあります。3つのテストの肩甲下筋の活性化は殆ど一緒と報告されています。しかし、感度・特異度はそれぞれのテストによって異なります。また、関節可動域が制限されている場合、使用できないテストもあるので、それぞれのポイントをしっかりと理解し使用する必要があります。

 

・Lift-off test

肢位:結帯肢位(伸展・内転・内旋)、手背部を背中につけた状態とします。
方法:手背部を背中から持ち上げます。
判定:疼痛が出現した場合を陽性
精度:感度33%、特異度94

・Belly press test

肢位:肩関節下垂、内旋位とし、前腕~手掌面を腹部につけます。
方法:腹部を圧迫するように肩関節を内旋させます。
判定:疼痛が生じた場合を陽性
精度:感度48%、特異度94

 

 

・Bear Hug Test

肢位:肩関節内転し、反対側の方に手を乗せ、手指は伸展位とします。
方法:検者は肩関節外旋方向に抵抗を加えます
判定:スタート位置を保持できない場合を陽性とします。
精度:感度55%、特異度94

肩甲下筋の短縮やスパズムに対する介入

肩甲下筋に短縮やスパズムが生じる理由として、腱板損傷や肩関節周囲炎があります。腱板損傷や肩関節周囲炎が生じると、疼痛に伴う不動化や炎症に伴う線維化などが肩関節可動域を制限し、肩甲下筋の短縮や循環不全・過剰収縮によるスパズムが生じると私は考えています。

 

肩甲下筋の短縮やスパズムが生じている場合、1st外旋や挙上可動域に制限が生じます。肩甲下筋への介入として、短縮があれば1st内旋や外転位からの内転の等尺性収縮(いわゆるホールドリラックス)、1st外旋による相反抑制を用います。スパズムであれば、振動刺激や肩関節1st内-外旋の自動介助運動を実施し、リラクセーションを図ります。

 

 

 

腋窩神経の評価と介入

腋窩神経の客観的かつ明確な評価方法が無いのが現状です。そのため、私は臨床症状や感覚障害、エコー下の触診による圧痛から腋窩神経障害の有無を判断しています。ポイントは3つあると考えていて、”肩関節屈曲-外転時に肩関節外側部に疼痛が生じる”、”肩関節外側部の触覚・温痛覚の低下”、”腋窩部、QLSに圧痛の有無”を確認しています。

 

肩関節外側部の触覚・温痛覚の低下については、アルコール綿を使って肩関節外側部の感覚の左右差を確認します。腋窩部、QLSに圧痛の有無はエコーを用いて、腋窩部や肩関節外側部に圧痛が生じるかを確認しています。

 

 

 

腋窩神経の問題が生じると、肩関節外側部痛だけでなく、屈曲や外転可動域制限にも関与するため、肩関節周囲炎(凍結肩)では介入する頻度がかなり多い部位になります。腋窩神経への介入は腋窩部で小円筋、大円筋、上腕三頭筋が隣接する周囲を徒手介入します。特に小円筋と上腕三頭筋の筋間、大円筋と上腕三頭筋の筋間への介入は大切です。また、腋窩神経は遠位上腕三頭筋の深層まで走行していくため、近位から遠位まで徒手介入を実施していきます。

 

1st外旋制限の評価

1st外旋を評価する際、単純に可動域を評価してもよいと思いますが、私は骨頭や肩甲骨の位置に注視して、評価を実施するようにしています。例えば、背臥位にて腹側から骨頭の位置を後方に誘導し、1st外旋の可動域が変化するのかを確認したり、座位では、肩甲骨の内-外旋、前-後傾で可動域が変化するのかを確認しています。

 

 

 

 

もし、上腕骨頭や肩甲骨の位置を変化させ、1st外旋可動域が変化する場合、CHLや肩甲下筋由来の制限もあるかもしれませんが、アライメント異常も1st外旋可動域に関連していることを考慮し、評価や介入が必要になります。

 

CHLへの介入

CHLは烏口突起から起始し、上腕骨に向かって走行する靱帯ですが、走行する際に肩甲下筋、棘上筋、棘下筋の腱を覆っています。そのため、何らかの原因により、CHLの肥厚や硬さが上昇すると様々な可動域制限に関与します。1st外旋制限はもちろん、3rd内外旋制限、屈曲-外転制限、結滞動作制限などに関与する報告されています。

私は烏口上腕靭帯は肩関節肢位によってそれぞれ伸張される部位が異なると考えています。外旋では前部線維、内旋では後部線維、屈曲では棘上筋付着部、伸展では肩甲下筋付着部が伸張されると考えています。なので、それぞれの方向に対し、徒手的アプローチを行う必要があります。私が治療初期で良く用いるのは肩関節中間位や軽度伸展位での軸回旋(内外旋)です。pointとしては、肩甲骨の前傾や上腕骨頭が挙上しないように徒手的に固定し、もう一方の手で肩関節の軸回旋を誘導します。

 

 

Scapular Assistance TestSAT

Scapular Assistance Test(SAT)は、肩関節屈曲の際に肩甲骨の上方回旋と後傾を徒手にて補助するテストです。SATを実施することで、肩関節の疼痛や可動域・筋力が改善するかどうかを確認します。また、肩甲骨の上方回旋・後傾だけでなく、状況に応じて内転や挙上を徒手的に誘導し、評価も実施しています。SAT陽性、陰性の基準としてはNRSで2ポイントの疼痛減少が認められた場合を陽性と判断します。

私が実施している方法として、肩関節挙上に伴い肩甲骨上方回旋の徒手誘導と、肩甲骨の前方突出を加え、肩関節挙上時の疼痛や可動域が改善するかを確認します。

 

   

菱形筋、肩甲挙筋の短縮による、肩甲骨の上方回旋の制限であれば、両筋へのリラクセーションを実施したり、肩甲骨内転(菱形筋)、頸部同側回旋(肩甲挙筋)を組み合わせ、それぞれの筋肉を短縮させた状態でSATを実施し、疼痛や可動域制限が改善するかを評価します。

 

 

僧帽筋の評価と介入

僧帽筋上部線維の評価

僧帽筋上部の筋力をテストする一般的な方法の1つを動画で示します。頭部をわずかに同側側屈、伸展、肩甲骨の挙上させた状態から、頭部の屈曲、対側側屈、肩甲骨の下制方向に徒手にて抵抗を加えます。僧帽筋の機能低下が生じていると、頭部の同側側屈、伸展、肩甲骨の挙上を保持できません。

 

 

 

僧帽筋中部線維の評価

僧帽筋中部の筋力は、被験者を腹臥位とし、肩関節外転・外旋位とします。肩関節を水平外転させ、上腕遠位に抵抗を加えます。僧帽筋中部線維の機能低下が生じている場合、水平外転を保持することが出来ない、肩甲骨の内側縁が突出しているなどの所見が認められます。

 

 

僧帽筋下部線維の評価

最後に僧帽筋下部線維の筋力評価について記載します。僧帽筋下部線維は被験者を腹臥位とします。そこから、肩関節を外転させ、上肢が僧帽筋下部線維と平行になるような肢位を取ります(肩関節外転約120◦)。

 

被験者には、上肢外転位を保持させ、検者は下向きの抵抗を加えます。僧帽筋の機能低下が生じていると、肩関節外転を保持することが出来ない、肩甲骨下角が胸郭から浮き上がるなどの所見が認められます。

 

 

僧帽筋の評価から、機能低下を引き起こしている筋肉に対して介入を実施していきます。僧帽筋のトレーニングとしては低から中程度のレベルの運動を繰り返し取り入れることが有用であると考えています。特に僧帽筋は中部線維や下部線維の機能低下が生じやすいです。そのため、それぞれの線維方向に沿って、徒手誘導をすることが大切です。また、僧帽筋は肩関節90°以上の関節角度で筋活動が高まるため、それぞれの角度で僧帽筋の収縮を行うように介入します。

 

また、僧帽筋の収縮効率を上げるために、小胸筋への介入も実施します。小胸筋ストレッチ、モビライゼーション後の僧帽筋上部、僧帽筋下部、および前鋸筋の活動は肩甲骨後傾運動で有意に大きくなったと報告されています。

小胸筋の評価と介入

小胸筋の評価として、姿勢・肩甲骨の位置・肩峰床面距離などを確認しています。姿勢の評価は耳垂と肩峰の位置を確認し、デスクワークの時間やスマホやタブレットの使用時間などを確認しています。小胸筋の短縮が生じると肩甲骨の外転、下方回旋、前傾が生じます。そのため、肩甲骨の位置・肩峰床面距離も確認します。
小胸筋の短縮を疑ったら、介入を実施します。私はCHLを介した小胸筋への介入、胸郭を介した小胸筋への介入、小胸筋へのダイレクトストレッチを実施しています。自主トレーニングとしては、Doorway Stretchを指導しています。

 

 

また、小胸筋と胸郭の柔軟性を同時に引き出す介入として、肩甲骨を前方・後方から把持し、肩甲骨の後傾・前傾を引き出し、胸郭の回旋、胸椎の伸展を誘導しながら介入していきます!

 

 

 

そして、肩甲骨の不安定性から小胸筋の短縮が生じている場合や長時間のデスクワークによる小胸筋の短縮の場合、ストレッチだけでなく、僧帽筋や前鋸筋のトレーニングを実施しなければ、根本解決には至らないため注意が必要です!小胸筋をストレッチすることで、僧帽筋や前鋸筋の筋活動が得られやすいため、セットで実施すると効果的だと思います!

 

 

 

前鋸筋の評価と介入

・前鋸筋の筋機能評価として

①端座位となり、肩関節屈曲90°、肘関節を屈曲します
②肘に対して後方に圧力を加え、抵抗させます
③抵抗に抗うことができない、また肩甲骨が浮き上がる場合を陽性と判断

 

肩甲骨が浮き上がる場合、明らかに左右で筋力が異なる場合、前鋸筋の機能低下が生じている可能性があるので、前鋸筋への介入が必要になります!

  

私は前鋸筋下部線維の介入は側臥位で肩甲骨の自動介助にて内転-外転を引き出す運動を行っています。介入初期は肩甲骨の内転-外転運動が出来ない方も多いでが、屈曲60°、90°、120°など様々な角度で実施します。肩関節屈曲角度によっても異なりますが、肩甲骨の外転に抵抗感がある場合、菱形筋や肩甲挙筋、小円筋などに追加のアプローチ、肩甲骨内転に抵抗がある場合、大胸筋や小胸筋、CHLや腋窩神経に追加のアプローチを行っています。

 

 

 

ある程度、前鋸筋の機能を引き出すことが出来たら、僧帽筋と前鋸筋を協調的に使用するためにWall Slideを実施します。最初は肩甲骨の動きをセラピストが引き出すように徒手誘導したり、口頭指示を入れながら実施していきます。

 

 

 

Wall Slideが出来るほどの肩関節屈曲可動域が存在しない場合は前鋸筋パンチやCat&Dogを実施することが多いです。立位で実施していますが、背臥位でも行うことが多いです。また、前鋸筋は外腹斜筋と連続しているため、体幹の対側回旋を入れながら実施することもあります。

 

 

 

Cat&Dogの様なベッドを押すような運動でも十分に前鋸筋の筋活動を得ることが出来ます。Cat&Dogを実施する際に気を付ける点は肩甲骨の挙上を引き起こさないようにする必要があります。

 

 

 

肩関節屈曲可動域がある程度獲得されている場合、ストレッチポールを用いた前方リーチ動作なども自主トレーニングとして指導します。前鋸筋の最大筋活動を促したい場合は挙上120°で運動を行なうとよいですが、肩甲骨の挙上などの代償運動が出現する場合は角度の調整を行う必要があります。

 

 

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