変形性膝関節症(以下:膝OA)では膝痛や歩行障害、筋力低下など様々な問題が生じます。中でも、膝OAで最も頻繁に見られた問題は関節液貯留であり、続いて鵞足炎(鵞足滑液包炎)と言われています。
つまり、膝OAでは関節内の問題と関節外の問題が同時に生じる可能性がある疾患になります。今回の記事では、関節外の問題である”鵞足炎(鵞足滑液包炎)”について、鵞足の解剖から発生機序を知り、評価-介入はどうするのかを考えていきたいと思います!
1.鵞足の解剖
縫工筋、薄筋、半膜様筋の3つを合わせて鵞足筋となります。
縫工筋
起始:上前腸骨棘
停止:脛骨粗面内側、下腿筋膜
神経支配:大腿神経
作用:股関節屈曲・外転・外旋薄筋
起始:恥骨結合、恥骨下肢
停止:脛骨粗面内側、下腿筋膜
神経支配:閉鎖神経
作用:股関節内転、膝関節屈曲、下腿内旋半膜様筋
起始:坐骨結節
停止:脛骨粗面内側、下腿筋膜
神経支配:脛骨神経
作用:股関節伸展・内転、膝関節屈曲、下腿内旋
鵞足は膝関節裂隙よりも約5㎝遠位に付着しています。表層は縫工筋腱によって形成され、深層は薄筋および半腱様腱によって形成されています。また、鵞足筋の深層には鵞足滑液包が存在しています。
鵞足の付着部の形態には、バリエーションが存在があります。そのため、エコーなどの画像機器で評価する場合、個人によって見方が異なるかもしれません。では、形態によって機能が異なるのかというと、大きな機能的変化はないと考えています💦
鵞足付着部で重要なことは、周囲に神経や血管が豊富に存在していることです。さらに、ルフィニ小体などの感覚線維も存在しているため、鵞足は感覚や痛みを感じとりやすい部位と考えることが出来ます。
鵞足滑液包の表層には伏在神経も走行しており、鵞足炎が生じると、伏在神経まで炎症が波及し、痛みが生じる可能性があります。
解剖から鵞足は痛みを感じやすい組織であるということがご理解いただけたと思います。続いては、鵞足の機能について考えていきたと思います。
鵞足は大腿部内側面を走行し、下腿筋膜に付着します。鵞足筋群は下腿筋膜の張力を調整する機能を有し、周囲の筋肉と連携して膝関節の内側安定性に重要な役割を果たしている可能性があります。
また、鵞足筋群の機能には下腿内旋の作用が存在します。中でも、特に薄筋の内旋制動の寄与率が高いと述べられています。そのため、鵞足炎の原因として薄筋が多いと考えられていますが、理由は下腿の内旋制動に関与する割合が一番多いからかもしれません。
鵞足の解剖と機能がわかったところで、膝OAと鵞足炎について考えて行きたいと思います。膝OAでは、なぜ?鵞足炎が生じやすいのでしょうか?
2.膝OAで鵞足炎が生じる理由
膝OAで鵞足炎が生じる原因として考えられるのは
・膝関節伸展制限
・アライメント不良
の2つが挙げられると思います。
膝関節伸展制限が存在すると、骨の適合性が低下し、十字靱帯や側副靱帯の張力が低下するため、膝関節の不安定性が増大します。そのため、膝関節の安定性を代償するため、鵞足筋群の活動が増大する可能性があります。
また、膝関節の伸展制限が存在すると、腓腹筋が短縮位となるため下腿筋膜の張力も減少します。そのため、鵞足筋が下腿筋膜の張力を調整するため、活動が増大する可能性があります。
簡単にまとめると、膝関節変形や組織変性などにより、膝関節の伸展制限が生じ、膝関節伸展制限に伴う関節不安定性が出現することで、鵞足が代償的に活動する可能性があります。代償的な活動が続くことにより、鵞足への負担が増大し、鵞足炎が発生する可能性があります。
膝OAに伴う膝関節伸展制限には多くの原因があるため、後程、腓腹筋の評価と介入についてのみ記載させていただきます。その他の評価-介入については割愛させていただきます。
膝OAで鵞足炎が生じる原因のもう1つに膝関節アライメント不良が存在します。内反型の膝OAでは下腿外旋や脛骨外方傾斜により、内旋や内転ストレスが増大します。外反型の膝OAでは外反ストレスが増大します。そのため、鵞足の活動が増大する可能性があります。
簡単にまとめると膝関節変形や組織変性に伴うアライメント不良により、下腿外旋や外反アライメントとなり、鵞足筋群の活動が増大する可能性があります。鵞足の活動が増大することにより、鵞足への負担が増大し、鵞足炎が発生する可能性があります。
膝OAに伴うアライメント不良には多くの原因があるため、後程、他関節の影響について、評価と介入の方法を記載させていただきます。その他の評価-介入については割愛させていただきます。
まとめると
・膝関節伸展制限による膝関節不安定性の増大
・アライメント不良による外反、下腿外旋の増大
これらが少なくとも、膝OAに伴う鵞足炎のリスクと考えられるため、この原因を見逃さないようにする必要があります。
3.鵞足炎の評価
まずは鵞足炎が生じているのかを確認します。鵞足は縫工筋、薄筋、半腱様筋から構成されるため、それぞれの筋肉の影響を確認します。触診動画はこちらからご覧いただけます☛(https://theraview.jp/)
トリガー筋鑑別テストでは鵞足を構成する3つの筋肉を評価します。
縫工筋肢位:側臥位操作:患側の股関節内転・膝関節を屈曲させ、下腿をベッドから降ろします。健側は屈曲にして骨盤の代償を抑えます。患側膝関節を伸展させ、鵞足周囲の疼痛の有無を確認します。
薄筋肢位:背臥位操作:患側股関節外転し、膝関節を屈曲させ下腿をベッドから降ろします。股関節内転位となると薄筋が弛緩するため、外転位に保ちます。患側膝関節を伸展させ、鵞足周囲の疼痛の有無を確認します。
半腱様筋肢位:背臥位操作:患側股関節・膝関節を90°屈曲させます。その位置から膝関節を伸展させ、膝関節周囲の疼痛の有無を確認します。
(赤羽根良和,林典雄:鵞足炎におけるトリガー筋の鑑別検査.理学療法ジャーナル46:175-179. 2012)
鵞足のエコー評価は下腿の長軸に合わせてプローブを設置します。脛骨近位関節面より、約5㎝遠位で鵞足の短軸像を撮影することができます。鵞足の明瞭な横断面は撮影できません。
確認するポイントは鵞足付着部の肥厚や血流シグナルの増強、鵞足滑液包の低エコー像の有無を確認します。KLグレード1~4を有する膝OA群の鵞足付着部の厚さは、膝OAなし群よりも大幅に厚かったと報告されています。
鵞足付着部を確認したら、膝関節内側支持機構や半月板の状態なども確認します。MCLや半月板に異常所見が見られた場合、静的安定化機構の機能低下が鵞足に過度なストレスを生じさせている可能性があるためです。
鵞足炎が生じていると判断した場合、膝関節伸展制限による鵞足炎なのか?アライメント不良による鵞足炎なのか?それとも両方による影響なのか?を評価する必要があります。
3-1.膝関節伸展制限と鵞足炎の評価-介入
まずは膝関節伸展制限の評価と介入について記載していきます。
膝関節伸展制限の評価としては、徒手評価や角度計といった方法がありますが、私は臨床ではHeel height difference(HHD)を用いることが多いです。踵の高さ1cmの差は約1°の膝関節屈曲拘縮と相関があると述べられています。
伸展制限があると判断したら、伸展制限の原因を見つける必要があるのですが、伸展制限の原因は多岐にわたるため、この記事では腓腹筋と膝関節伸展制限の関係性について記載していきます。
まず、膝OAでは腓腹筋がどのような状態になっているのかを考えていきましょう。膝OAでは腓腹筋の筋力低下が生じます。蹴り出しや膝関節の安定性を高める場面では、筋力低下を補うため、腓腹筋の過活動が生じている可能性があります。
実際、歩行では膝関節の不安定性も相まって、腓腹筋の筋活動が健常者よりも早く長く活動しています。また、別の筋肉においても筋活動が早く長く生じていることがわかります。
このように、膝OAではCo-contractionが長時間生じる可能性が報告されています。Co-contractionとは、”拮抗筋と主動作筋が同時に収縮する現象”のこといい、関節の安定性に寄与する重要な機能になります。
Co-contractionは関節の安定性に寄与する重要な機能ですが、長時間筋活動が継続するということは、筋疲労にも繋がりますし、筋の短縮や循環障害に伴う筋スパズムが出現する可能性もあります。
特に、膝OAが重度な場合、ハムストリングや大腿四頭筋、腓腹筋のCo-contractionの割合が高くなるため、腓腹筋の短縮やスパズムがより顕著になり、膝関節伸展制限に関与する可能性があります。
腓腹筋の短縮やスパズムにより、膝関節伸展制限が存在する場合、腓腹筋内側頭の内側への移動動態が変化します。
健常者では、足関節底屈時、腓腹筋内側頭は内側へ5mm程度移動すると言われていますが、膝OAでは動きが減少また、動きが出現しない場合があります。また、動きが制限されている場合、腓腹筋内側頭に顕著な圧痛が生じる場合が多いです。
膝関節伸展制限が存在し、腓腹筋内側頭の動きの制限と圧痛が存在する場合、腓腹筋内側頭への徒手介入を実施します。足関節底屈に合わせて、内側筋腹を誘導します。
また、腓腹筋内側頭の圧痛の軽減、内側への動きが改善したら、自動運動で足関節底屈背屈を実施します。私は臨床ではHeel raiseを用いることが多いです。負荷が強ければ、平地でのHeel raiseでもよいと思います。
3-2.アライメント不良と鵞足炎の評価-介入
続いて、膝OAとアライメント不良の評価と介入について記載していきます。
まずは視診にて、大まかな下肢のアライメントを確認します。その後、私は足部状態を確認しています。特に、足部の回内状態を確認するようにしています。
内-外反型の膝OAどちらでも回内足は生じますが、私は鵞足に問題が生じるタイプは外反型の膝OAと考えています。外反型の膝OAでは、足部が回内すると上行性運動連鎖により、外反ストレスが膝関節に生じるため、鵞足の活動が増大し、鵞足炎に繋がる可能性が考えられます。
※注意点この解釈は完全なる私見になりますので、臨床ではこの解釈がすべてではないということにご注意ください。
私は足部状態を評価する際にはFoot Posture Index(以下、FPI-6)を使用しています。FPI-6は特別な器具を必要とせず、視診と触診で安静立位時の足部の回内外位を評価できる指標です。
各項目は 5 段階(-2,-1,0,+ 1,+ 2)で採点し、最低点-12 は足部過回外を、最高点+ 12 は足部過回内を表します。
0~5点が正常足
6~9点が回内足、10以上は過回内足
-1~-4点が回外足、-5点以上は過回外足
また、足部状態を評価したら、足部アーチの状態も確認します。アーチの評価のポイントとして、非荷重時に足部アーチが認められても、荷重時に足部アーチが消失する場合もあるため、必ず足部アーチを評価する時は非荷重・荷重のどちらでも評価する必要があります。
また、横アーチと縦アーチはそれぞれの影響をうけるため、両方のアーチを評価しています。
足部の状態や足部アーチに問題があれば、インソールを作成します。アーチをしっかりと支持し、足底内在筋が働きやすい環境を作ったり、靱帯や筋肉、靴だけでは足部を支持できないこともあるため、インソールを用いることが多いです。
足底内在筋のトレーニングはインソールを入れながら実施した方が効果的と考えています。アーチが崩れている状態では、なかなか足底内在筋の力の入れ方がわからないことが多いです。そのため、インソールを挿入し、足底内在筋が働きやすい環境で実施するのもよいと思います。
それでも、なかなか足底内在筋の力の入れ方がわからない場合、物理療法を併用してトレーニングを実施することが多いです。
また、外反型の膝OAでは股関節外転筋の筋力低下が生じていることもあるため、股関節外転筋のトレーニングと同時に足底内在筋のトレーニングを実施することで、より効果的な結果が得られるかもしれません!