膝関節伸展制限が存在すると
・術後の患者の転帰が悪化する
・異常歩行を引き起こす
・膝OAの発症リスクの増大
・膝関節伸展筋力の低下
などといった問題が生じます。
膝関節伸展制限と歩行の関係性を考えてみると、伸展制限が存在すると立脚期における十分な安定性と荷重分散が行えません。そのため、四頭筋の活動が大きくなり、関節への負荷(圧縮ストレス)も増大します。また、膝関節不安定性や負荷が増大することで関節変形や疼痛に繋がります。
機能面だけではなく、膝関節伸展制限は日常生活にも影響を与えます。階段昇降や立ち上がりにおける、努力量の増大や動作時の疼痛に繋がる可能性があります。
そのため、膝関節伸展制限を放置しておくことは、将来の関節変形や日常生活レベルの低下、膝関節疼痛の出現リスクを高めていると言っても過言ではないと思います。
では膝関節伸展制限の原因は何があるのでしょうか?
膝関節伸展制限の原因としては、変形性膝関節症やスポーツ外傷に伴うものや膝関節術後に生じる可能性があります。しかし、膝関節伸展制限のメカニズムは一様ではなく、様々な要因が複雑に重なって生じます。
今回の記事では、膝関節伸展制限と後方組織の関係性について記載していきますが、まずは膝関節伸展制限をしっかりと見つける(評価する)ところから始めていきます!
私が臨床で実施している膝関節伸展制限の確認方法として、背臥位での下肢の位置を確認するようにしています。もちろん、アライメントや歩行状態も確認するのですが、患者さんに力を抜いてもらうために背臥位で確認することが多いです。
背臥位で確認するポイントは1つです!
それは「背臥位で下腿が外旋位にあるかどうか?」になります。
下腿外旋が認められる場合は、膝関節伸展制限が存在する可能性があります(骨盤の回旋や大腿周径も影響するためスクリーニングで実施)。
背臥位にて下腿外旋が認められたら、膝関節伸展制限を評価します。評価方法として、徒手評価や角度計を用いる方法があります。しかし、これら2つの方法では、細かい角度までは評価しにくいです。
そのため、私はHeel height difference(HHD)を用いることが多いです。この方法で、踵の高さ1cmの左右差は約1°の膝関節屈曲拘縮と相関があると述べられています。
HHDで膝関節伸展制限が認められたら、Passive lagの影響が大きいと考えています。Passive lagとは、軟部組織の短縮や拘縮によって、受動的に関節可動域が制限されている状態です。そのため、まず始めに評価する部分は後方の軟部組織と考えています。
膝関節伸展制限に関る後方組織として、腓腹筋、大腿二頭筋、脛骨神経・総腓骨神経、腓腹筋-半膜様筋滑液包(ベーカー嚢腫)などが挙げられます。 また、膝関節伸展制限が後方組織にある場合、膝が常に屈曲位、膝を伸ばすと裏が痺れる、膝を伸ばすと重い、痛いなどの症状が認められます。
これら膝関節伸展制限に寄与する組織と症状をまとめると、以下の様なチャートになると思います(異なる考え方もあると思います)。
今回はこのチャートに基づいて、膝関節伸展制限について考えていきたいと思います。
1.腓腹筋・ハムスト・膝窩筋と膝関節伸展制限
まずは3つの筋肉と膝関節伸展制限について考えていきます!
腓腹筋・ハムストリングは膝関節屈曲作用があり、膝窩筋は下腿内旋作用(スクリューホームの制限)があるため、3つの筋肉の短縮や拘縮が生じると膝関節伸展制限が生じることは容易に想像ができます。
では、これらの筋肉をストレッチすると膝関節伸展制限が改善するかというと、そんなに単純な話ではありません。もちろん、改善する場合もあると思いますが、私はあまり経験したことはありません。
そのため、別の観点から膝関節伸展制限を考えていく必要があります。そこで、私がそれぞれの筋肉において臨床で確認している、ポイントについて記載していきたいと思います。
1-1.腓腹筋の着目ポイント
ー 腓腹筋 ー
起始:内側頭は内側顆、外側頭は外側
停止:踵骨隆起
神経支配:脛骨神経
作用:膝関節屈曲、足関節底屈
腓腹筋の解剖を詳しく見ていくと、腓腹筋内側頭も外側頭も斜膝窩靱帯(関節包)に付着しています。また、内側頭の表層かつ半膜様筋の深層に滑液包が存在しています。
この滑液包は腓腹筋と半膜様筋間の動きを維持するために重要な組織と考えられており、膝関節伸展時に腓腹筋内側頭・半膜様筋間のストレスを軽減する可能性があります。
腓腹筋内側頭は運動時、内側へと移動する動態が認められますが、滑液包と腓腹筋内側頭、半膜様筋間の動きが制限されると膝関節伸展制限に関与する可能性があります。
1-2.ハムストの着目ポイント
ー 半膜様筋 ー
起始:坐骨結節
停止:脛骨内側顆、斜膝窩靭帯、膝窩筋の筋膜
神経支配:脛骨神経
作用:膝関節屈曲、股関節伸展、下腿内旋
ー 大腿二頭筋 ー
起始:長頭は坐骨結節、短頭は大腿骨粗線外側唇
停止:腓骨頭
神経支配:脛骨神経(長頭)、総腓骨神経(短頭)
作用:膝関節屈曲、股関節伸展、下腿外旋
ハムストリングは下腿回旋に関与します。膝関節伸展時に脛骨は外旋するため、ハムストリングの短縮や組織間の動きが低下すると、脛骨の外旋を制限する可能性があります。
また、ハムストリングスの解剖で重要と考えられる部分は半膜様筋は腓腹筋内側頭と交差し、大腿二頭筋は腓腹筋外側頭と交叉するところです。交差する部分には、滑液包や疎性結合組織、神経が存在しており、組織間の動きが制限されると、膝関節伸展制限に関与する可能性があります。
なぜ?交差するところが大切なのかというと、組織間の摩擦ストレスや圧縮ストレスが生じやすく、組織の変性や損傷が生じやすい部位と考えられるためです。
高速道路でも、道路が交差するところ、料金所で道路が集まってくる部分は渋滞が生じやすいです。身体でも組織が集まる部分では、同じこと起こるのではないかと考えています!
1-3.膝窩筋の着目ポイント
膝窩筋は多くの膝関節後方組織と連続しており、下腿の回旋にも関与しています。膝窩筋の短縮や拘縮は膝関節伸展制限に関与する可能性があります。
ですが、私の中で膝窩筋は臨床で一番初めに膝関節伸展制限の原因として考えません。腓腹筋やハムストに問題が無さそうであれば、膝窩筋を疑うようにしています。
2.腓腹筋・ハムスト・膝窩筋の評価
評価において大切なことは、組織の炎症や損傷が生じていないかを考える必要があります。炎症や組織損傷が生じている場合、ドクターに支持を求めたり、組織へ負担をかけないように注意する必要があります。
例えば
・膝OAの関節炎に伴う、関節内の腫脹・脂肪体・滑液包の炎症
・外傷による、大腿二頭筋周囲の脂肪体の線維化や癒着
↓
腓腹筋や半膜様筋、大腿二頭筋の動きが制限
↓
膝関節伸展制限の発生
炎症や組織損傷が無ければ、一般的な膝関節伸展制限の評価を実施し、それぞれの組織の評価を進めていきます。筋肉のみが問題となっている場合、痛みや腫れを認めることはなく、他動的な可動域は維持されていることが多い印象があります。また、膝関節伸展時に伸張感が得られます。
2-1.腓腹筋の評価
臨床上、腓腹筋の動きが制限されている場合、筋腹の圧痛が生じることが多いです。そのため、私は腓腹筋の圧痛は必ず確認するようにしています。
腓腹筋内側頭の起始は半膜様筋に覆われており、足関節底屈-背屈を行う事で腓腹筋は内外側に移動する動態となります。同部位には滑液包も存在しており、動きが制限されていると、膝関節伸展制限にも関与します。
腓腹筋内側頭の移動量は正常では半膜様筋の深層へ向かうように、5mm内側へ移動します。変形性膝関節症で伸展制限が存在する場合、内側頭の移動量は3mm程度と報告されています。
膝OAでは、膝関節軽度屈曲位を呈していることが多いため、腓腹筋と半膜様筋間の動きが制限されていることが多いです。腓腹筋-半膜様筋の動きが制限されると膝関節伸展可動域制限となるため、必ず評価-介入しましょう!
2-2.ハムストリングの評価
ハムストリングはPSLRにて短縮の有無を確認します。左右差や下肢の内外旋を加えることで、どちらの制限が大きいのかを評価します。内側-外側の前方引き出しを実施し、ハムストリングの後方組織の抵抗感も確認しておくとよいと思います。
背臥位にて下腿回旋の抵抗感も確認します。内側の引き出し制限されている場合、半膜様筋(腓腹筋内側頭)が伸展制限に関与し、外側の押し込みが制限されている場合、大腿二頭筋(腓腹筋外側頭)が伸展制限に関与している可能性があります。
大腿二頭筋に問題があるようであれば、足関節底屈背屈時のエコー動態を確認してみましょう!大腿二頭筋の内側で腓腹筋外側頭が左右に動いている様子を撮影することができます。この動きが制限されると、膝関節伸展制限に関与すると考えられます。
2-3.膝窩筋の評価
腓腹筋内側頭やハムストリングに問題が無ければ、膝窩筋の機能低下や障害を疑って評価を行います。
しかし、膝窩筋の機能低下を正確に評価する方法はありません。そのため、私はエコーを用いて、膝窩筋に圧痛が生じているのかを確認するようにしています。膝窩筋の表層には血管や神経が走行しているため、エコーを用いることで他の組織との判別がしやすいです。
また、膝窩筋腱溝で膝窩筋腱周囲の低エコー像や血流シグナルを確認し、組織の状態も確認するようにしています。
3.腓腹筋・ハムスト・膝窩筋への介入
それぞれの筋肉に対する私なりの介入方法について記載していきます。
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