大腿筋膜張筋と腸脛靭帯は本当に悪者なのか?

 

 

大腿筋膜張筋(以下:TFL)と腸脛靭帯(以下:ITB)は臨床において、よく着目される、組織だと思います。よく悪者扱いされる組織ですが、本当にTFLITBに問題が生じているのでしょうか?

 

 

 

例えば、THA術後などではTFLがパツパツに張って、痛みを訴える方も多くいます。あれは、本当にTFL自体が問題となっているのか、二次的にTFLが問題となる何かが背後にあるのかを考える必要があります。

 

 

今回の記事では、TFLITBの基礎的な解剖と機能について考え、TFLITB「本当に原因として問題を起こしているのか?」それとも、「ただの被害者なのか?」を検討していきたいと思います!

 

1.大腿筋膜張筋の解剖

 

大腿筋膜張筋(TFL)は中殿筋、小殿筋ともに股関節外転筋群と呼ばれる筋群を形成しています。一般的にTFLの作用は股関節屈曲、外転、内旋ですが、矛盾する報告も散見されます。

 

 

TFLは上前腸骨棘(ASIS)と腸骨稜に沿って起始し、腸脛靭帯(ITB)の表層と深層に停止します。筋腹の長さには個体差がありますが、ほとんどは大腿骨大転子の手前で筋腹が終わります。

 

TFLは股関節の屈曲、外転、内旋の動作が主たる作用ですが、立位・歩行時の骨盤の安定性を補助する上でも重要な筋肉になります。

 

 

TFLは、体重が負荷されている側の腸骨を下方に牽引し、対側の股関節を挙上させます。体重が負荷されていない側の股関節が挙上することで、遊脚期の足部のクリアランスを向上させています。

 

そして、TFLには骨盤を制御し、安定化させる機能があります。特に立脚中期(MS)において、TFLは効果的かつ持続的に収縮するために有利な解剖学的な位置にあり、MSで最も強いEMG活動を示します。

 

 

そのため、大腿筋膜張筋の筋力低下が出現するとトレンデレンブルグ歩行が出現する可能性があります。中殿筋・小殿筋の損傷や機能低下が生じている場合、大腿筋膜張筋の機能は重要になります。実際、中殿筋腱または小殿筋腱の断裂を有する患者において、TFLが肥大していることが報告されているので、TFLは中殿筋・小殿筋の機能を代償するかもしれません。

 

 

 

また、変形性股関節症では中殿筋と小殿筋の萎縮が存在する場合が多いので、骨盤を支持するためにTFLの代償機能が重要になるかもしれません。

 

ここまでを考えると、TFLは悪者というよりも他の組織の機能低下を代償する、優秀な組織と考えることが出来そうです。そのため、TFLに問題が生じている場合、その隠れた悪者を見つけ出す必要がありそうです!

 

 

また、TFLは腸脛靭帯(ITB)を介してGerdy結節に付着します。そのため、股関節だけでなく膝関節にも影響を与えます。その点については、ITBの項で詳しく考えていきたいと思います。

 

 

 

2.腸脛靭帯(ITB)の解剖

 

ITBは大腿筋膜の肥厚した部分で表層、中間層、深層の三層構造です。主に、大殿筋やTFLからの線維から構成されます。深層は股関節包と大腿直筋反回頭の間の臼蓋から発生すると報告されています。

 

 

股関節の深層の部分(ITBTFLの連続)は臨床的に重要と私は考えています。臼蓋から起始しているため、股関節屈曲可動域や股関節インピンジメントに関与している可能性があると考えています。

 

また、ITBは大殿筋やTFL以外にも、中殿筋、外側広筋、大腿二頭筋、膝関節外側の関節包との連続も報告されています。そのため、ITBは多くの組織の影響を受けることを理解しておく必要があります。

 

さらに、ITBは起始で多くの組織と関係することを記載しましたが、停止部でも多くの組織と関係します。ITBGerdy結節だけでなく(1)遠位大腿骨粗線、 (2)大腿骨外側上顆、 (3) 膝蓋骨、外側膝蓋支帯および外側膝蓋大腿靱帯、 (4) Gerdy´s結節に隣接する関節包-脛骨挿入部に付着します。

 

 

ITBの停止部は脂肪、血管、神経、パチニ小体が存在し、扇形に付着していることが特徴的であり、メカノレセプターとしての役割があると考えられています。

 

 

 

停止部は多くの組織と関係し、感覚器としての役割がある一方で、神経や血管が存在するため疼痛を引き起こす可能性がある部分でもあります。では、これらの解剖からITBの機能について考えていきましょう!

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